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連載アホ小説 『第3話 みっちゃんとマキさん』

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ガードマン味玉のFunnyな1日♬

 

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第1話 漢の闘い』はこちら💁‍♂️

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第2話 闘いにあとには』はこちら💁‍♀️

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第3話   みっちゃんとマキさん 

 

ヤマトのエサを買うため帰り道でコンビニに寄った。

 

 

入り口でヤマトを待たせ自動ドアをくぐると、冷房で程よく冷えた空気とともに、みっちゃんが笑顔で迎えてくれる。

 


「いらっしゃいませ!あ、味玉さんだ。久しぶりですね」

 

 

節約生活の味岡は滅多にコンビニには寄らない。

昼食は手製の弁当だし、飲み物も水筒に詰めた麦茶だ。

 

 

自宅と最寄駅の中間にあるこのコンビニには、ちょうどタバコを切らした時に寄るくらいだが、それでもみっちゃんとは仲良くなった。

 

 

好みの女性を見つけるとちょっかいを出さずにはいられないのだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「すみません。アチョーください」

 

 

「は?え?アチョー?」

 

 

「ん?あれ?違ったかな。ええと…胃腸でもなく、右朝でもなく…あ!そうそうエチョー!」

 

 

「…エ、エチョー」

 

 

「ほら。その端っこにあるオレンジ色のイチバン安いタバコ」

 

 

「え?あー…あはは~!お客さん、これアチョーでもエチョーでもなくエコーです!」

 

 

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「え?マジすかポリス?どうりでいつもコンビニでへんな目で見られる訳だ。早く言ってくれりゃいいじゃんね。ありがとう、ええと…みっちゃん!」

 

 

ネームプレートの『道端』という名字をどう読んでいいか分からず(分かっていてもそうするのだが)勝手につけたあだ名で呼んだ。

 

 

みっちゃんは少しはにかんだ笑顔と一緒にタバコを差し出した。

 

 

「ボク味岡玉夫、通称味玉。よろしくね、みっちゃん」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

それからというもの、味岡は時々このコンビニに寄る。

 

 

わざわざ切れたタバコをしばらく我慢して、ここまで帰ってくることもある。

 

 

化粧っ気がなく、黒髪を、これまた黒いゴムで後ろにまとめただけの地味なみっちゃんは、いつもニコニコしている。

 

 

小柄で少しぎこちない動きが、どことなくコケティッシュで可愛らしい。

 

 

 

なにしろ、ふたり目の妻と別れてから、味岡が会話する女性は、会社に業務終了報告をする時、たまに電話に出る経理のお局さまと、現場で「ご苦労さまぁ~大変だねぇ~」と声をかけてくれる近所のおばぁちゃまくらいである。

 

 

若い頃、散財しまくったキャバクラなんてもんは、今はとても行く余裕がないので、若い女性との会話はとても貴重だ。

 

 

 

「久しぶりだね、みっちゃん。ごめんね。俺に会えなくて寂しくなかった?」

 

 

「私のほうこそごめんなさい。今の今まで味玉さんのことすっかり忘れてました。アチョーですか?」

 

 

 

味岡は、みっちゃんのこういう返しが大好きなのだ。

 

 

「いや、今日はね、猫のエサ買いに来た。いいのあるかな?」

 

 

「えー!猫飼ってるんですか?ええと…こちらの棚です。…あ、いらっしゃいませ!」

 

 

ぎこちない動きで1度レジカウンターからひょこっと出てきたみっちゃんは、ほかの客の会計のため慌ててレジに戻った。

 

 

一緒にヤマトのエサを選んで欲しかったのだが仕方がない。

 

 

 

 

えーと…どれがいいかな…

 

 

缶は高いからカリカリのやつにしたいところだけど、ヤマトとの出逢を祝して豪勢にいきたい気もする。

 

 

それに、お互い体力も消耗したしな。

 

 

この「モンプチゴールド極上鯛まぐろ」なんて最高だな。

 


いくら持ってたかな…

 

 

 

お気に入りだったのに今は角がボロボロに擦り切れた、ヴィトンのエピの長財布をまさぐると…

 

 

ゲゲンチョ!!

(;゜0゜)

2千円しかねぇぞ!

給料日まで、あと5日もあるのに…

 

 

どうする?ここは男気を見せるか…

 

 

 

しばらく悩んだのち、結局両方買うことにした。

友情は金では買えない。

 

 

それに、5日くらいなんとかなるだろう。

 


「1250円になります。ポイントカードはお持ちですか?」

 

 

 

みっちゃんは、持っていると分かりきっていても、度々ポイントカードを出し忘れる味岡のために毎回そう聞いてくれる。

 

 

そんな、みっちゃんの優しさに、照れから素直に感謝できない味岡は、つい軽口を叩いてしまう。

 


「え?ポイントカードはお餅じゃないよ。カードは食べ物じゃない。それに、お餅は喉に引っかかるから好きじゃないんだ」

 


後ろから別の客が来たので、みっちゃんは、笑いをこらえながらヒラヒラと手で味岡を追い払う仕草をした。

 

 

 

ま、今日はこれくらいで勘弁してやろう。

 

 

味岡は、満足気にレジ袋を振りながらドアに向かう。 

 

 

あ、やべっ!

ヤマトの奴、怒ってるかな?

遅いよって…

 

 

しかし、店を出るとヤマトは、猫のくせに大人しくお座りしていた。

 

 


が…

 


別に盗られてもいいやと、いつも無造作にその辺にぶん投げている制服やらヘルメットやらが入ったバカでかいスポーツバッグの上に、なにやらちょこんと鎮座まします物体が。

 

 


ん…なんじゃこりゃ?

ってオイ!ウ◯コじゃねぇか!!

チクチョウ…やりやがったなヤマトの奴…

 


「オイッ!ヤマト!!o(`ω´ )o」

 

 


振り返るも、ヤマトはすでに遥か先を悠々歩いている。

 


おーい!ヤマトーー待ってくれよーー!

 

てか俺のウチ知ってんのか? 

 

 

 

急いでヤマトに追いつき、国道を渡り、しばらく歩いて細い路地を曲がる。

 

 


我が家が見えてきた。

 

 

築70年は経とうかという邸宅の庭に、ぽつんと建つ離れを間借りしている。

 

 

空襲のあと、すぐ建ったのだろうか。

重要文化財に指定されてもおかしくない立派なボロ屋だ。

 

 

錆びた鉄門を押して離れに向かう途中、大家のマキさんが庭の花壇に向かってしゃがんでいた。

 

 

シャベルで土をいじりながら、こよなく愛する花たちに優しげにしゃべりかけていて、かなりヤバイ人の雰囲気を醸し出している。

 

 

マキさんは自分では頑なに否定するが、3つ4つは『ド』がつく天然ちゃんだ。

 

 

今日香ちゃんという中学生くらいの可愛い娘さんと、ふたりで母屋に暮らすシングルマザーだ。

 

 

味岡と同い年くらいだろうか。

詳しくは聞いていないが、旦那さんとは死別したらしい。

 

 

「ただいま。マキさん」

 


「あ、おかえりなさい玉ちゃん。早かったね 」

 

 

振り返ったマキさんの鼻の下は、ヒゲでも生やしたように腐葉土で汚れていてる。

 

 

あとで鏡を見てギョッとする楽しみをとっておいてあげるため、それには触れず味岡は答えた。

 

 

「そうなんすよ。…色々あったんですけど、まぁまぁ早く終わりました」

 


「あ、その猫どうしたの?わ!まっ黒ね。名前は…そうだ!黒猫のヤマトにしましょ」

 

 

「…ちょうどボクもそうしようと思っていたところです」

 

「あら、気があうわね。それよりお腹すいたでしょ。ご飯用意してあるから持ってきなさいよ」

 

 

 

マキさんはいつも「どうしてこんなに?」と思うほどの大量の料理を作る。

 

 

いったい何日あれば今日香ちゃんとふたりで食べきることができるのか分からないほどの量だ。

 

 

よほど今日香ちゃんの食育にこだわりがあるのか、それとも亡くなった旦那さんの陰膳なのだろうか。

 

 

気にはなるものの、そのお陰で度々ご相伴にあずかることが出来るので、そのことを突っ込んだことはない。

 

 

 今日も財布がほぼ空になった味岡には、たいそう有り難いお誘いだった。

 

 

それに、マキさんの手料理は本当に美味しいのだ。

 

 

台所の流しの下の開き戸から適当にタッパーを引っ張り出し食堂へ、テーブル狭しと並べられた料理をタッパーにギュウギュウ詰めて離れに帰る。

 

 

建てつけの悪いガラスの引き戸をガタガタとこじ開け、離れの玄関をくぐると、ヤマトがスルリとあとをついて入ってきた。

 

 

「あぁ…今日は色々あったな。まぁ、ビールでも飲みながら友情を深めようじゃないか」

 

 

 

皿に移した猫缶をヤマトに与え、自分も缶ビール…いや発泡酒のプルタブを引き起こし、使い込んで木目が黒光りする丸いちゃぶ台の前にどっかと腰を下ろした。

 

 

1杯目のグラスが空こうかという頃には、すでにヤマトは綺麗に猫缶を平らげ、さっそく縁側に自分の寝床を確保して丸くなった。

 

 

「なんだよ…猫付き合いの悪いヤツだな」

 

 


ようやく傾き始めた太陽だが、未だその力は衰えていない。

 


しかし

 


心地よい初夏の風が

緩やかに離れの居間をとおり

開いたまま閉まらなくなった曇りガラスの窓へと抜けた。

 

 

ヤマトの長いしっぽが時折揺れる

 


ゆったりと廻る酔いとともに、平穏な今日の終わりがゆるゆると近づいてくる。

 

 

疲れているのだろう

右手でちゃぶ台に頬杖をつき

すっかり泡の消えたグラスを左手に握ったまま

味岡もやがて静かに寝息をたて始めた。

 

 

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第4話「焦げとヤマトと満月と」へ続く

 

 

 

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