前回までのあらすじ
職探しをしようにも、スマホ操作もネット検索も覚束ない三浦国宏を不憫に思った…というよりも、何度も電話がかかってきて「検索のやり方を教えてくれ」と言う三浦に、いい加減ウンザリした味玉は、彼を誘い、飲みに行くことにした。
実際にスマホの画面を見ながら、転職サイトの使い方を教え込むためだ。
待ち合わせの錦糸町に住む「ちとせさん」も誘い、3人で乾杯すると程なく、三浦は、せっかく見つけた住込みの土工の仕事を、何日か仕事にあぶれたという理由でアッサリ辞めてしまったことが発覚。
DVDプレイヤーどころか、今日から寝る場所すらないのに、何故か熟女系のエロDVDを買って喜んでいる三浦を囲み、彼の今後を話し合ったのだが…
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三浦国宏 50男・規格外の就活
第2話 『自転車があればなんでも出来る!イチ・二・サンっ・ダァーーーっ!!』
「え?何の話ですか会長。もう1回最初からいいですか?」
ちとせさんと、今日から三浦をどこに寝泊まりさせようか、と相談していた横で、なにやらひとり呟いていた三浦が「ちょっと!ふたりとも聞いてますか?」と話に割り込んできた。
話を聞いてあげないと、いつまでも絡んでくるし、終いには拗ねてしまって鬱陶しいので、とても面倒だったが三浦の話を聞くことにした。
「じゃぁ、もう1回説明しますよ…だからぁ思い出すんですよ…エクアドルとかぁ…フィリピンとかぁ…50℃になると思い出してぇ『あー自分の故郷はあったかかったなぁー!』つぅんで…思い出すらしんですよ」
「…誰が?」
「…何を?」
味玉とちとせさんが同時に聞き返す。
「バナナ」
「は?」
「え?」
味玉とちとせさんの声がステキにハモる。
「だから50℃に戻してぇ…バナナを…それを5分間、そうすると、故郷を思い出して『わぁ〜〜懐かしぃ〜〜』ってなって甘〜〜くなるの♡それが最高のバナナなの…ね♡」
何が『ね♡』なのか…
「ちとせさん、こんなバナナ奴はホっといて、さっきの話を続けましょう」
「そうね…まるで、楽しみにしていたバナナが腐ってしまって、泣く泣く処分したような最悪の気分ね。…で、あるにはあるんだけどね、私が倉庫代わりに使ってるマンションが。そこは、荷物があるだけで、誰も住んでないから使ってもらって構わないんだけど…」
「えー!さすがちとせさん、いいじゃないですか!それで解決ですね。良かった良かった!」
「いやそれが、場所が埼玉の奥地なのよ。駅からも結構な距離あるし…」
卓球の審判よろしく、味玉とちとせさんのやり取りに合わせ、ふたりの顔を交互にガン見していた三浦が、また割り込んできた。
「あ、大丈夫ですよ。私には自転車がありますからどこだって行けちゃいます。こないだも4時間くらいかけてナントカってとこに面接に…」
「それは、さっき聞きました!で、その4時間かけて行った面接に見事に落ちたんでしょ?ハイハイ、いいから、ちょっと黙っててください」
三浦は、どうやら最近のオキニらしい、そのエピソードを遮られ、しょぼん顔になる。
口をへの字ににして、箸で蟹味噌をこねくり回し始めた。
「ん〜〜埼玉かぁ…それはちとツライですね。現場は日々変わるから、ヘタしたらホントに4時間かけて仕事に行くハメになるなぁ…」
「でしょ?ちょっと他もあたってはみるけど…どのみち今日の明日じゃ、どうにもなんないわね」
困ったな…
このままじゃ、ホントに公園で寝泊まりする、ホンモノのホームレスになっちまう。
まぁ、この人のことだから、真冬でも風邪ひとつ引かないだろうとは思うけど…万が一ってこともあるからなぁ…
高校生の『オヤジ狩り』にあったこともあるし…
「しょうがないな…今日は、取り敢えずボクの家に連れて行きますよ…スゲーイヤだけど。ちょうどKも元嫁のところに泊まりに行ってるんで1日だけなら…明日以降のことは、また考えましょう」
「え!?いいの!?味玉くんやっさしぃ〜♡」
「ま、仕方ないですよ。この人には散々お世話に…アレ?…なってないな…むしろ、お世話しかしてない気が…」
「あはは〜!だよねー!でも、ホントにいいの?」
「乗りかかった舟ですわ、いや、毒を喰らわば皿まで、かな…それにボク一応マネジャーってことになってるし。ジムはもうないけど」
「へぇ、味玉くんて会長のマネジャーだったの?芸能人でもないのに?」
「いや、そういうマネジャーじゃなくてジムのマネジャーです。本来のマネジャーっていうのは、会員の入・退会を管理したり、選手の試合やスパーリングのスケジュールを調整したり、他にも色々と仕事があるんですけどね」
「ふぅん、でも、会長のオンボロジムは練習生も10人そこそこだったし、プロジムじゃなかったから試合に出る人もいなかったよね」
「そうです。だからボクの仕事は、酔った会長を担いでジムに運ぶのと、会長のFacebookをメンテナンスするのと、会長が飽きた頃に新しい熟女系のエロサイトを探して、パソコンのデスクトップにショートカットを作ることくらいでした」
「バカ過ぎる…」
「あはは!ですよね。でも、二郎さん…あ、送別会の時、ちとせさんも会ったでしょ?渡辺二郎さん。初めて二郎さんに会った時に会長が『コレがウチのジムのマネジャーです!よろしくお願いします!押忍!』ってボクを紹介してくれたんですよ。ボク同じ岡山出身で、二郎さん大好きだったからメチャクチャ嬉しかったんですよね」
「へぇ〜…そんなことがあったのね。でも、それを恩義に今でも面倒見るなんて、やっぱ味玉くんは優しいわ…あ!いけない、忘れてた!ウチの人も誘っといたんだけど、もう家に帰ってる頃だ。ちょっと電話してくるね」
そう言って、ちとせさんはスマホを手に席を外して、電話するには少し騒がし過ぎる店を出た。
(ほう!例のちとせさんの『愛しのパパン』が来るのか!確かプロレスラー…しかも覆面レスラーだって言ってたな…どんな人だろう…)
やがて、ちとせさんと共に現れたその人は、とてもプロレスラーとは思えないほど紳士で物静かなイケメンだった。
「どうも、初めまして渡辺です。お噂はかねがね…どうぞよろしくお願いします」
そう言って丁寧に頭を下げ、席に着いた。
なぜ覆面をかぶっているのだろう?
素顔の方が、女子にモテそうなもんだが…
「こちらこそよろしくお願いします。いやぁ…ボクサーは何人も知ってますけど、レスラーの人とお会いするのは初めてです。興味あるなぁ…お話聞かせてください」
クールな表情のまま、しかし、ほんの少しだけ口角を上げた渡辺さんとグラスを合わせた。
プロレスの裏話を聞いたり、味玉オススメの短編小説、プロレスラーを主人公にした中島らも大先生の『お父さんのバックドロップ』の話などをしていたところで、渡辺さんが、ふと視線を三浦のビニールバッグに向けた。
開いたファスナーから覗いたDVDのケースに気づきヒョイとつまみ出して尋ねる。
「何ですか?コレ」
「あ…老婆時代です…」
渡辺さんは、クルクルとケースをひっくり返しながら真剣な顔でDVDの説明書きを読み込んでいる。
「きょ、興味ありますか?」
「はい…あ!いや、そ、そういう訳じゃ!」
ちとせさんが『そんな話聞いてない!』とでも言いたげな、驚きと怒りと呆れが入り混じった表情でパートナーを見つめる。
「あはは!良かったら持って行ってください。どうせ三浦はDVDプレーヤー持ってないし、ボクの家にはありますけど絶対使わせないですから」
「え!?いいんですか?ありがとうござ…アダっ!!」
ちとせさんが全力で脳天唐竹割りをくらわせた。
「ギャハハ!ウケる!(≧∀≦)」
そうして散々盛り上がり、そろそろ散会することになった。
肝心のスマホ操作は一切手付かずだが…ま、仕方がないだろう。
ちとせさんと渡辺さんが仲良く並んで歩く後ろ姿を見送ると、三浦がタクシーで帰るというので、味玉は表通りの国道14号線まで出て車を捕まえ、店の前で待つ彼の元に回した。
しかし、バカでかい荷物を何個も抱えた上に、自転車にまたがったままタクシーに乗り込もうと待ち構えている、どこからどう見ても頭がイっちゃってるパンチドランカーを見ると、そのまま通過して走り去ってしまった。
ジムワークをこなした上、結構な量を飲んでしまった味玉は疲労もあってか、三浦をたしなめる気力も湧かず、また14号線に向かった。
ようやく停車してくれた、3台目のタクシーの運転手は、荷物はいいけどトランクが閉まらないので自転車はダメだと言う。
「どうしましょ?自転車がないとマズイっすよね。面接も行けないし」
「あ〜いいのいいの!自転車なんかなくても全然オッケー、OK牧場!」
「え?何言ってんですか?明日は仕事でしょ?会長が地下鉄の乗り継ぎなんかしてたら永遠に地上に出られなくなりますよ」
「大丈夫だぁ〜!走って行きますから。新宿なんてすぐそこでしょ?」
( ̄▽ ̄;)💧
もう、どうでもいいや…
そうして、店の前に自転車を放置したまま我が家に帰り、家に着くなり仲良くダブルノックダウンした。
🤮🤮🤮
翌朝未明
まぁまぁの2日酔いを『気のせいだ!』と自分に言い聞かせ、なんとか起きだした味玉は、朝食とふたり分の弁当を用意すると三浦を叩き起こす。
「会長、起きてください!新宿で仕事ですよ!」
『今日は仕事行かない!』と駄々をこねる三浦をようやく起こし、朝食を済ませてテーブルに向き合った。
「会長、これから転職サイトの使い方を教えるから、よーーーーーく見て覚えてくださいよ。ホラ、携帯貸してください」
味玉は、三浦が自分で仕事を探せるようにと、スマホ操作を教えようとしたのだが…
「アラ?これ端末なんですか?どうやって画面開くの?」
iPhoneしか使ったことがない味玉は、ホームボタンが見当たらないスマホの使い方が分からず、三浦に尋ねた。
「え〜と…どうやるんでしたっけ?私もよく分かんないんですよね…」
しばらくスマホをイジクリ回して、ついに諦めたオッさんふたりは、三浦のスマホを眺め、しばし途方にくれた。
「しょうがない…ボクのスマホで調べるから見ててくださいよ。そんで良さそうなのがあったら電話番号をメモにしてあげます。休憩中か仕事終わりで電話してみてください」
そう言って5つほど求人募集している会社を見繕ってメモにして三浦に渡した。
三浦は平身低頭、メモを押し頂き、大事そうにポッケにしまう。
「んで会長、どうやって仕事行きますか?地下鉄の乗り継ぎ分かります?」
「自転車で行きますよ」
「は?自転車いらないって言うから錦糸町に置いてきましたよ」
「え?!そうなの?私そんなこと言った?…ありゃりゃりゃりゃりゃ…しまったな…ま、いいか。錦糸町まで取りに行きますわ。すぐそこでしょ?」
「いやいやいや、歩いたら小一時間はかかりますよ。いや、そんな荷物抱えてたらもっとかかるかも」
「大丈夫、大丈夫!楽勝ですよOK牧場イエイ!」
…もう好きにして
( ̄▽ ̄;)💧
そうして、荷物を抱え錦糸町まで歩く三浦の背中を、しばらく眺めた後、自分も仕事に向かうため、自転車の向きを変えてペダルを踏みこんだ。
仕事決まるといいな…
第3話に続く…