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連載アホ小説『第1話 漢の闘い』

連載アホ小説

ガードマン味玉のFunnyな1日♬

 

第1話 漢の闘い

 

「じゃ次の問題…『自転車が、ガードマンの制止を無視して通行しようとした。事故を起こす危険があったので身体を張って自転車を止めた』はい、マルかバツか?え~と…味岡くん答えてみて」

 

 

小汚い雑居ビルの3階

味岡玉夫(通称味玉)は、10人も入れば随分と酸素濃度が下がりそうな会議室でガードマンになるための新任研修(未経験者は着任前に30時間の研修を受けなければならない)を受講していた。

 

 

指導教(指導教育責任者)の亀山が「ジロッ」と味岡を睨み、手にしていた指示棒で味岡を指す。

 

 

亀山は元警察署長

プチ天下りだ。

 

 

警備会社が、退任した警察官を受け入れれば、その警官とコネクションがある所轄での道路使用許可証(工事のため公道を一時的に占有する許可)が取りやすくなるほか、ここでは言えないような様々なメリットがある。

 

 

 

「あ~はい…まぁ、マルのような気もしますが、わざわざ問題にしているってことは何かあるんでしょうね…だから答えはバツ…かな」

 

 

 

味岡のヒネた答えにムッとしたのか、亀山は元々いかつい顔をさらにしかめて言った。

 

 

「味岡くん。そんなひねくれた考え方じゃダメだ。世の中通用しないよ。…まぁ、答えは合ってるけどね。理由はちゃんとあるから良く聞いておいてね」

 

 

 

ガードマンが行うのは「交通誘導」

それに対し、警察官が行うのが「交通整理」

 

 

前者はあくまでも お願いであり工事への協力を依頼するだけ。

 

仮に歩行者や自転車、車両などがガードマンの言うことを聞かなかったとしても、それ以上のことはできない。

 

 

それに対し警察官が行う「交通整理」は強制力を持つ。

 

信号と一緒、つまり無視すれば道路交通法違反で反則金が課せられ、悪質な場合は罰金刑になることもある。

 

 

制服を着て誘導灯を振るガードマンに、一般人が必要以上に威圧感を感じたりしないようにするため、その権限には制限がかけられている。

あくまで、一般私人の権限内のそれでしかないのだ。

 

 

ほかにもガードマンに対する制限は多い。

業務中は、交通誘導以外の作業を行ってはならない。

 

 

職人さんに協力して工事そのものを手伝うことはもちろん、カラーコーンや工事看板の設置、道路の掃き掃除でさえも本来は行なってはならないのだ。

 

 

これらは、労働者派遣法および警備業法の規定によるもので、仮に業務外の作業を行いケガを負っても労災は下りない。

 

 

 

 

 

 

「・・・くん!・・・いてるの?・・・味岡くん!オイってば!!」

 

 

 

ハッと我にかえる。

 

 

朝礼時(と言っても朝礼会場はなく、住宅街の道路上である)現場監督が注意点を説明する中、味岡は新任教育の時の事を思い出し、ボウっとしていたようだ。

 

 

「あーはい、すみません。聞いてます。要は警備業法をちゃんと守ればいいんですよね」

 

 

 

 

小柄で神経質そうな、それでいて、どこか抜けたところがある雰囲気。

 

味岡の問いに監督はグイッと胸を張り、答える。

サイズの合わないヘルメットがズルリと後ろにズレた。

 

 

「そう!なにしろウチは天下の湧水建設だからね。コンプライアンス・CSRには徹底的にこだわっているんだ。どんな些細な法令違反も見逃さないからね。もしも、法令違反があったらオタクとの取引は今後一切しないから、そのつもりでね!」

 

 

 

味岡は、ヘルメットをかぶり直しながら言う監督を苦い顔で一瞥し、心の中でつぶやいた。

 

 

 

うへぇ!そりゃいくらなんでも大袈裟じゃないかい?

長谷部の野郎。また、こんな面倒な現場に俺を送り込みやがって…

チクショウ、2度とあいつの口車には乗らないようにしよう。

 

 

長谷部は、管制といって、顧客からの依頼に合わせガードマンを各現場に配置する部署の責任者で、随分と人を喰った、ふざけた野郎だ。

 

 

「はい。お任せください監督。で、今日の業務内容なんですが…」

 

 

「あぁ、そうだね…じゃ説明するよ…」

 

 

 

説明された本日の業務は

 

『目の前に建つ立派な個人宅の駐車場に、コンクリートを打設したあと、それが乾いて固まるまで見張っている』

 

という随分ショボいものだった。

 

 

これが天下の湧水建設さんの仕事か?と思ったが、どうやら専務の知り合いの邸宅らしい。

なおさら注意が必要だ。

 

 

しかし、業務自体は、ものの3~4時間もあれば終わる。

 

 

今回ばかりは、確かに長谷部が言った通りオイシイ現場なのかもしれない。

 

 

前回は、ホントにヒドかった。

 

 

 

 

「味岡くん、味岡くん!オイシイ現場があるんだけど行ってみない?」

 

 

「へぇ…どんな現場ですか?」

 

 

「うん、それがね、仕事の終わりはハヤイし、監督さんや職人さんもいい人でやりヤスイし、とってもオイシイよ」

 

 

 

ラッキー!

 

と、喜び勇んで行ってみれば何のことはない。

 

 

1階に吉野家さんの店舗が入っていたビルの解体工事だ。

 

 

早いの・やすいの・美味しいの…

 

 

クソッ!

 

 

実際は、休憩は無いは、粉砕したコンクリートガラは運ばされるは、荒っぽい監督にどやしつけられるは、散々な現場だった。

 

 

仕事が終わった後、長谷部に文句を言ったが、涼しい顔(電話なので見えないのだが)で流される

 

 

「あはは~!味岡くんシャレだよシャレ。おこっちゃや~よ♡」

 

 

 

バカバカしくて怒る気にもならなかった。

 

 

今回の場合は、こうだった。

 

 

「味岡くん。オイシイ現場あるよ。どう?お兄さん?興味無い?」

 

 

ポン引きか?

 

 

「もうダマされないっすよ長谷部さん。この前は散々な目にあったんだから」

 

 

「いやいや、味岡くん。今度ばかりはホントのホント。これ買わなきゃ損するよ。すんごく楽な現場なんだ。半日かからないんじゃないかな。もちろん日給は満額出るよ。オイシイよ」

 

 

「ふ~~ん…限りなく怪しいけれど…ま、いっか。もう一回ダマされてみようかな」

 

 

「そうこなくっちゃ!じゃ現場の住所言うね。味岡くんの家からなら歩いていけるよ。さぁ!メモのご用意はよろしいですか?え~っと…江東区……」

 

 

 

 

 

現場では、コンクリートミキサー車によるコンクリ打設が終わり、土間屋さんがコテで平らにならす。

 

 

30分もかからない。

 

 

「じゃ、あとよろしく。この天気なら…そうだな、3時間もすれば、ある程度乾くんじゃない?そしたら撤収ね。僕は事務所に戻るけど、たま~に巡回に来るからね。くれぐれも法令順守で頼むよ!」

 

 

そう言うと、監督は去って行った。

 

 

 

さあて、お仕事お仕事。

 

 

しかし、ここは閑静な住宅街。

人通りは少ない。

 

 

平日の午前中なので、コンクリートに足跡👣をつけようとするイタズラ好きな小学生もいないだろう。

 

 

特にやることもないし…

暇な1日になるぞ。

 

 

 

 

コンクリに「ひらり」と舞い落ちた木の葉を慎重に取り除き、問題ないことを確認すること数回、順調に時間が過ぎていたその時…

 

 

1匹の猫が現れた。

 

 

絵に描いたような黒猫だ。

 

 

向かいのブロック塀の隙間から顔をのぞかせ佇んでいる。

 

 

片目がつぶれ鼻血を流している。

 

 

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ケンカ帰りか?

 

 

おいおい勘弁してくれよ全く…

コンクリに猫の足跡🐾なんて、まるでマンガの世界じゃないか。

 

 

 

味岡は無類の野良ネコ好きだし、その黒猫は怪我もしているようだが、今だけは構ってられない。

 

 

「シッシッ!」

 

 

手を振り威嚇した。

 

 

ところが、普通なら人間を見るとササッと逃げる野良猫が、なぜか微動だにせず5mほど先から味岡をじっと睨んでいる。

 

 

潰れていない右目でチラとコンクリを見て笑った。(ような気がした)

 

 

ゆっくりと前進。

近づいてくる。

 

 

ダメダメ!

まだ乾いてないんだから。気持ちはわかる。肉球をコンクリに『ぐにゅ』ってやりたいんだろ。そんでもって怒る施主の顔こっそり盗み見て、してやったりとほくそ笑みたいんだろ。

でもだ~めよ。

ほら!あっち行け!

 

 

 

誘導灯を振って追い払おうとするも、黒猫は余裕のたたずまいである。

 

 

さらに1歩

 

 

チクショウ…こうなったら仕方がない。

実力行使だ。

 

 

猫をひっつかもうと手を伸ばしかけたその時、視界の隅に人影が写った。

 

 

監督が、遠くの電柱の陰からジーーっと睨んでいる。

口をへの字にして腕組みだ。

 

 

まさか…

 

 

これを警備業法違反と言うのか?

 

 

猫だよ?

 

 

確かに交通誘導に強制力はない。

ひたすら、お願いするのみだ。

 

 

しかし猫に?

どうやって?

 

 

味岡は、前方に腕を伸ばし、右足を踏み出した姿勢で固まった。

 

 

そうこうしているうちに黒猫は、また2歩進む。

 

 

もう4mの距離だ。

 

 

ええい、どうすりゃいいんだよ。

仕方ない…ダメ元で言ってみるか。

 

 

 

「あのぉ~…すみません黒猫さん。あ、お名前がわからないのでとりあえず黒猫さんと呼ばせて頂きますね。えと…今ですね、まだコンクリが乾いてなくてですね、通られると困ってしまうんですよ。はい…お気持ちは重々お察ししますがね。ここ通りたいんですよね?近道ですか?でも大変申し訳ないのです。あちらから迂回していただけないでしょうか?」

 

 

しかし黒猫は…

 

 

「フンッ!」

 

 

鼻で笑いやがった!

 

 

ペロペロと毛づくろいをして、再び味岡に向き直り、ニヤッと笑った。

 

 

今度は、間違いなく笑った。

 

 

さらに2歩

 

 

「ちょ、ちょっとちょっとお客様!お願いです!ただいま支配人を呼びしますので、しばらくお待ちいただけませんか!!」

 

 

黒猫は、踏み出そうとした左足をピタっと空中で止め、ゆっくりと元に戻した。

 

 

通じたのか?

まさかな…

 

 

しかし今がチャンスだ。

どう対処すべきか、急いで監督に指示を仰ごう!

 

 

と、監督のもとに駆け寄ろうと走りだした瞬間。

 

 

「味岡くん!立哨(りっしょう)位置、離れちゃダメっ!!」

 

 

おいおい監督…そりゃないぜセニョール。

じゃ、一体どうすりゃいいんだよ。

あまりのバカバカしさに泣きそうになってきた。

( ;´Д`)

 

 

 

しかし、弱ってばかりもいられない。

俺もプロのガードマンだ。

ここで引き下がっては男…いや「漢」がすたる。

 

 

 

腹に力を込めて、身体の隅々から闘志をかき集めた。

 

 

よーーーし!

見てろよ黒猫…

そう!黒猫のヤマトよ。

俺をナメた事を後悔させてやるぜ。

 

 

それに監督さんよ。

俺が本気出したらどういうことになるか、目ん玉ひん剥いてよ~く見てろってんだ。

 

 

 

味岡は、おもむろに、しかし力強く両手を地面についた。

 

 

対決だ

手は出さねぇ

気力と気力のぶつかり合いだ。

俺の本気のオーラ

受けてみやがれ。

 

 

 

ヤマトは、それまでの余裕の微笑みを一変させ、隻眼を鋭く輝かせた。

 

 

ヤツも本気だ。

キツイ勝負になるぞ。

 

 

 

初夏の太陽が、対峙してまんじりともしない2人…いや、1人と1匹の漢、そして、半乾きのコンクリをジリジリと焦がす

 

 

味岡の脇の下は、じっとりと汗ばんできた

 

 

ツ…

 

 

と、こめかみを汗がつたった。

 

 

 

 

 

第2話 『闘いの後には』へ続く…

 

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