前回までのあらすじ
女子高生のスカートを風から守る赤鹿の必殺技『JKスカートセーフティング』を察知し、俊敏な動きで躱した謎のプレミアム女子高生。
赤鹿は、危うく警察に通報されそうになるが、味岡玉夫(通称味玉)の説得でことなきを得る。
しかし、プレJKは「その代わり実力を証明せよ!」と大量のJKが下校する裏通りへ味玉と赤鹿を導いた。
あまりのJK数に「無理だ!」と必死に止める味玉の忠告を退け、無謀な闘いの道を選んだ赤鹿の運命や如何に。
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連載アホ小説
ガードマン味玉のFunnyな毎日♬・Season2
第3話 彼女の名はマリア
いったん収まった風は、再び吹き始めた。
最初は静かに…しかし、ゴングが鳴りコーナポストから振り返ると、猛然と敵に向かって突進するドファイターの如く、その風の勢いは急激に増した。
ひしめき合ったJK集団の中では、自慢のフットワークと見えない左右の連打が使えない。果たして赤鹿は無事に『JKスカートセーフティング』を実行し、くだんのプレJKを納得させることができるのだろうか?
闘い序盤、味玉の心配を他所に、赤鹿は素晴らしい立ち上がりを見せた。
深めに腰を落とした姿勢のまま、両の足でしっかとアスファルトを掴み、至近距離からノーモーションの鋭い連打を繰り出していた。
「こ、これは…」
10cmの爆弾だ!
至近距離から繰り出す一撃必殺の強打『Burning Blood・高◯リョウ』の必殺パンチである。
(赤鹿のヤツ、ここまでのワザを身につけていたのか…しかも、それを連打で。イケる…これはイケるぞっ!)
どうだい!え?この動き。なかなかやるだろう?
とばかりに、味玉がドヤ顔でプレJKを振り返ると、彼女は赤鹿の闘いには目もくれず、その辺から引き抜いたエノコロ草で、これまたその辺をウロついていた黒野良猫をウリウリとじゃらしているではないか!
「ちょ、ちょっとプレちゃん!何やってんの?ちゃんと見てあげてよ、赤鹿さんの勇姿を…」
「は?ナニそれ?アタシのこと言ってんの?アタシ『プレちゃん』なんてイカれた名前じゃないんですけど」
「あ、ごめん…そうだった。つい妄想と現実がゴッチャになって…ええと、では、なんとお呼びすれば?」
プレちゃんは、黒猫の方を向いたまま面倒くさそうに、そして心底イヤそうに答えた。
「…マリア、漢字で書くと…やっぱ、いいや、説明するの面倒くさいから。それと変な妄想しないでくれる?キモチ悪いから」
味玉は、構わず会話を続ける。
「へぇ!アリアちゃんかぁ〜♡ いいねぇ〜カッケーじゃん。あ、もしかして御尊父殿はクリスチャンかな?」
「さぁてね… おら!ウリウリ!」
マリアちゃんは、相変わらず黒猫に夢中だ。
「えー!いいじゃん!教えてよぉ〜…って、ん?おいっ!おまえヤマトじゃねーかっ!」
よく見ると、その野良猫は、数年前に突然味玉の前から姿を消した『クロネコのヤマト』ではないか。
「おまえ、今まで何処ほっつき歩いてたんだよ〜!
心配した…いや、あんましてなかったけど、元々野良だし…でも心配したぞ、一応な!」
「へぇ、おっさんこのコのこと知ってんだ。しばらく前からアタシに懐いてきてさ…それよりいいの?あの変態アホエロオヤジほっといて」
「…え?」
すっかり忘れていた。
(そうだっ!赤鹿さんはっ?)
振り返ると、スタミナ切れでヘロヘロになった赤鹿が汗みどろでもがいていた。
未だ気温は下がらない。それどころか、逆に雲ひとつない快晴の残暑の太陽が容赦なく、そして残酷に赤鹿の体力を削り取っている。
(…もつのか?…最後まで。)
腕に着けるのが嫌いで、誘導灯に巻いてある腕時計を見る。
午後3時前。
(…もう少しだ。)
少しずつまばらになり始めたJKの群れは、やがて嘘のように引いた。
5時限目が終わり、ホームルームを済ませた3年生たちの下校ラッシュは、ひと段落したようだ。しかし、まだ6時限目の授業を残した1・2年生がいるはずだ。
赤鹿が、文字通り足を引きずりながら味玉の元に戻ってくる。唇が青い。チアノーゼを起こしているのだろう。
「赤鹿さんっ!もう無理だ!この試合棄権しよう!」
しかし、赤鹿は静かに微笑むと首を横に振った
「何を馬鹿げたこと言ってんだぁ味玉ぐんよぉ。おらぁこの闘いは投げね。ちと午前のスクワットが効いてるだけだぁ。まだまだいけるっぺ」
しかし、強がる言葉とは裏腹に赤鹿の額から流れ落ちる汗の量は尋常ではない。明らかに熱中症の症状だ。
「とりあえずコレを飲め」
味玉は、下げていた腰袋からスポーツドリンクのペットボトルを取り出すと、赤鹿の顎を上げさせ、左人差し指を添えて空中から赤鹿の口に注ぎ込んだ。
と、その時、背後からマリアちゃんが冷たく言う。
「アタシ、もう行くね」
「え?」
「え?」
「今から知り合いのジムに出稽古。今日は、元日本ランカーの竹信さんがスパーやってくれることになってんの。男子だしウェイト全然違うけど、今度の対戦相手かなりのハードパンチャーだから無理言ってお願いした。遅れたら失礼でしょ?」
口をポカンと開けて呆けるふたりを置いて、マリアちゃんはそう言い残し、スタスタと行ってしまった。
「…赤鹿さん、もうやめよう。マリアちゃんがいないんじゃ、この試合の意味は…ゼロだ。それに赤鹿さんの体力も限界だ。『10cmの爆弾』だって『10cmの中折れ不発弾』みたいになってんじゃん。これ以上続ければ、確実に熱中症になって下手すりゃ労災扱い、本社で管制やってる長谷部にまたネチネチ言われるぞ」
「うんにゃ、オラァ投げね。最後まで闘う。それがホンモノのガードマンだ。それに、オラァ中折れなんかしね。まだまだ現役、それに12cmはある」
「あ、赤鹿さん…」
赤鹿の鬼気迫る表情に気圧された味玉は、暫し言葉を失うが、やがて力強くこう言った。
「分かった!もう止めねぇ!いや、むしろ応援するぜ、あと少しじゃねぇか、思いっきりやって来い!」
そして再び、チラホラと姿を現し始めたJKの群れに、重くゆっくりと、しかし確かな足取りで歩を進めた赤鹿が、その流れに身を委ねる。
(頑張れ!赤鹿さん!)
10数分後…
味玉は、エアコンの効いた詰所の長イスに赤鹿を横たえ、上着のボタンを外してズボンのベルトを緩めた。そして、金物屋からお中元代りにもらったウチワでパタパタと風を送る。
「なぁ〜だから言ったじゃんよ〜、やめとけってさぁ…熱中症はクセになるから厄介なんだよ」
あのあと、あまりの暑さと激しい体力の消耗で、志し半ばにして崩れ落ちた赤鹿を、交通誘導警備業務2級試験のため習得した負傷者搬送方法とは程遠いやり方で詰所まで運び込んだ。
肩に抱えるには、あまりにも赤鹿の汗がキモチワルかったため、両足首を持ってアスファルトを引きずってきたのだ。
途中、ヤマトがその姿を一瞥し、呆れたようなあくびをしたあと『ひょい』とブロック塀に飛び乗り、去って行くのを見たが、追いかけることは諦めた。また、いつか会えるだろう。
長イスに横たわった赤鹿は、なにやら時おり、うわ言のように無念の思いを呟いてるが、支離滅裂過ぎて解読はできない。おぼろげながら意識はあるようだ。
(…そこまでヒドくはないけど…念のため救急車を呼んどくか?)
などと考えていたその時、監督が現れた。
3時の一服休憩時に『どうやらガードマンがひとり倒れたらしい』と噂するユンボのオペさんと手元の土工さんのやり取りを小耳に挟んだようだ。
「あ〜困るよ味岡く〜ん。まだまだ残暑が厳しいから、水分・塩分とこまめな休憩をとるように!って散々朝礼で言ったじゃないか〜。せっかくここまで無事故・無災害で来たのにさぁ〜」
「す、すみませんっ!ボクの管理監督能力の甘さと、こいつの度を超えた変態アホエロオヤジさ加減が原因です…海より深く反省してます」
しかし、監督は渋い顔で続ける。
「でも困ったなぁ…来週から住宅街に面した現場の南側に新しく第2ゲートを作るんだよね。だんだん車両も増えて来るから、2t車とか小さな車両は第2ゲートから搬入する予定なんだよ。そっちにもガードマン常駐させることになるから、今度の人は、まともな人だったらいいなって期待してたのに…これじゃ、明日からは来れないね。しょうがないけど、また別の人を配置してもら…ぅわっ!?」
監督が言い終わらないうちに、赤鹿はバネ仕掛けの人形のように跳ね起きた。
詰所の天井パネルに頭がぶつかるかと思うくらいの勢いだった。
「監督さんっ!オラァ大丈夫だっ!熱中症なんかじゃねっ!バック誘導の練習しながら後ずさりしてたら、ついうっかりカラーコーンの先っぽが、持病のキレ痔に突き刺さっただけだぁ!でも、もう大丈夫。オイッチニサンシ!オイッチニサンシ!…ね♡」
驚いた監督は、訝しげに味玉の顔を窺おうとするが、味玉はアホらしすぎて、ただただ呆れてうなだれるばかりであった。
(この変態アホエロオヤジめ……)
こうして、この現場は南北にそれぞれゲートを持つ、ガードマン3名体制の現場となった。
味玉が北、赤鹿が南ゲートをそれぞれ担当、もうひとりは搬入車両に合わせて南北ゲートを行き来するサポートメンバーだ。
(次は、誰が来ることになるのだろう…)
味玉は、何人か心当たりの顔を思い浮かべたが、すぐに考えるのをやめた。
イヤな予感しかしない…
( ̄▽ ̄;)💧
第4話『Cに恋する5秒前』に続く…
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