連載アホ小説
ガードマン味玉のFunnyな毎日♬ Season2
第1話 阿呆の背中にゃ鬼が哭く
気がつけば、あと3ヶ月ほど…この12月で丸4年が経とうとしている。
味岡玉夫(通称味玉)がガードマンになってからの年月だ。
最初は、軽いアルバイトのつもりで始めたのだが豈図らんや、コレが意外に面白い。
浅草のゲストハウスの近くの工事現場では、パツ金プリンのネーちゃん達と楽しく挨拶を交わした。
目の前が保育園だった現場の警備では、目を輝かせながらユンボやクレーンを見上げる子供に話しかけるフリをして、艶っぽい人妻たちと仲良しになった。
若い女性だけではない。
何故か分からぬが、味玉は熟女にかなりモテる。
監督に見つかったら怒られてしまうと思っているのだろう。『しぃ〜!』とばかりに人差し指を唇に当て、固く握った飴ちゃんを、そうっと味玉のズボンのポッケにねじ込むお婆ちゃん。
会うたびにタフマンを差し入れてくれる、3輪自転車にまたがった元気なヤクルトレディ(おばちゃま)。
『これ食べて♡』と、皿に乗った丸々一枚のピザを持ってくる有閑マダムまでいた。
休憩時間にはまだ早く、ピザの処遇に苦慮したが、せっかくのご厚意だ。ハムスターよろしく必死で頬張ると、味玉を見た通行人が『ギョっ!』としていた。さすがにピザを喰いながら歩行者誘導するガードマンは初めて見るのだろう。
楽しいのは近隣住民との触れ合いだけではない。
ガードマン仲間も個性的なヤツが多い。ひとりで現場に配置されることも多いから、そうそう他のガードマンに会う機会もないけれど、強烈なインパクトのある人間は簡単には忘れられない。
女子校生好きの赤鹿さん。
最初に可笑しなワンセンテンスをつけないと喋り始められない権田原さん。
他にもアホなヤツは山ほどいる。
そして、1ヶ月ほど前から派遣された今の現場もなかなかの現場だ。
海にほど近い住宅街。国道に面したマンション建築現場の近くには、私立のマンモス女子校がある。少し早出して、朝礼前に歩道の掃き掃除をしていると、ちょうど通学時間と重なる。
すでに、何人か挨拶を交わす顔見知りのJKもできた。あと1ヶ月もすれば、仲良く会話できる子が出来るだろう。
味玉は毎朝、JKの爽やかなレモンの香りに包まれてココロの中でニヤついていた。
先週までは、コレがまた強烈な個性の持ち主、万頭くんとふたりで仕事にあたっていた。しかし、残念ながら監督にダメ出しをされてしまい、今日から新しいガードマンが配置される。
(さぁて、今度はどんなヤツが来るのだろうか?)
ガードマンボックスのパイプ椅子に腰かけ、そんなことを考えながら咥えたエコーに火をつけようとした時。
「おはよう〜!味玉ぐぅん!久しぶりだぁなぁ〜」
「なんだ…アンタかよ(笑)」
独特の東北訛りで、顔を見るまでもなく誰だか分かった。JK好きの赤鹿さんだ。元鉄筋屋の50男…いや、それが3年以上前だから 55歳くらいになるのだろうか。中身は変態なのだが見た目は中々の男前だ。
「ちょうど今、赤鹿さんのことを考えてたんだよ。やっぱしオレって冴えてる男だな。」
「そうなの?でもヒドイなぁ。『なんだ』はないよ〜『なんだ』は〜。味玉ぐぅん〜。一緒にじょす高生動画を鑑賞した仲じゃないかぁ。一夜を共にしたこともあるしぃ〜」
(※ シーズン1「第8話 走レ!エロス」参照)
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「オェ〜!朝から気持ち悪いこと言うなよ。でも、まぁ…今日からよろしくね」
さっそく赤鹿の口をついて出る「女子校生」という言葉に、若干の不安を感じながら、ふたりで朝礼会場に向かった。
(何しろ ここは女子校の近く、しかもマンモス校だ。女子高生がわんさか通る。何も事件が起きなきゃいいけど…ま、起きたら起きたでオモロイからいいんだけど…)
細長くL字型をした工事現場は、まだ躯体は立ち上がっておらず、以前建っていた建物の解体がようやく終盤にかかる頃だ。形はいびつだが、更地に近いため結構広く感じる。
朝礼を終え、赤鹿にざっと説明をする。
「赤鹿さん、見ての通りこの現場は、まだ始まって1ヶ月くらい。そろそろ以前建っていた建物の解体が終わるんだ。本格的な工事はこれからだから、今はまだ車両は少ない。壊したコンクリートガラをダンプが搬出するだけ…うーんと、1日2台が3回転で計6台。あとは、3日おきに燃料のローリーが来るくらいだからそんなに忙しくはないんだ」
「なんダァ楽勝じゃねぇかぁ。でも、したら何で今日はガードマンふたりなんだべか?」
「うん、ゲートのある大通りは国道だから結構交通量が多くてね。それに歩道も狭くて…言いたくないんだけど、近くに女子校があるから人通りも多い。監督が安全第一だってんで2名体制にしてるんだよ」
赤鹿の目がキラリと光った。
「ナヌっ!じょす高だって!味玉ぐん、なんでもっと早くオラァをこの現場でに呼んでくんなかったんダァ!」
(全く…だから言いたくなかったんだよ。けどまぁ黙っていても、すぐに分かることだからしょうがない)
「いやね、先週までは万頭くんと一緒にやってたんだよ。だけど万頭くん出禁になっちゃってさ」
「ナヌっ!あの万頭?どこに行っても1日やそこらで出禁になるあの万頭かぁ⁈」
「そう、その万頭…この1ヶ月大変だったよ。ほら、この現場は海も近いし、現場の南側は戸建ての住宅街だから海まで高い建物がないじゃん?遮るもんがない上に現場の両隣りに高層のマンションがあるせいで、ゲートん所にちょうど風が吹き抜けるんだよね。結構強い風が。万頭くん、ダンプの運ちゃんから伝票を受け取り損ねて、風で飛ばされて、へんてこりんな阿波踊りみたいな格好しながら伝票追っかけて行っちゃったんだよ。そのまま1時間くらい戻ってこなかったね。結局伝票は見つからず手ブラで戻って来た」
「ん〜…いかにもアイツのやりそうなことだっぺ」
「他にも造花のプランターに毎日一所懸命水やったり、水道のホースをドラムから伸ばして来いっつったら、グッチャグチャに絡ませて、ほどくのに30分近く奮闘してみたり…ま、現場は暇だしオモロかったからいいんだけどね…最後は自転車でヨロヨロ走ってるおじいちゃん守ろうとして車道に飛び出してトラックに轢かれそうになったんだ。監督がちょうどそれを目撃しちゃってさ。今まで目をつぶってくれてたけど、とうとう言われたんだ『味岡くん、ありゃダメだ。ガードマンにガードマンつけなきゃいけなくなる』ってね。それで出禁になっちゃった」
しかし、赤鹿は味玉の話には上の空で、虚空を睨みブツブツ言っている。
「じょす高生に、強い風…あぁ…オラァこの時にために生まれて来だのかもしんねぇ…」
あ、赤鹿さん…
( ̄▽ ̄;)💧
「あのね赤鹿さん、ヘンなこと考えてんじゃないよ。もう動画撮影はしないからね。捕まるよ、いい加減にしないと」
しかし赤鹿は急に真面目な顔になり、こう言った。
「うんにゃ違うだよ味玉ぐん。ガードマンつうのはやっばり社会的認知度が低い職種だっぺ?」
「ん?…まぁそうだけど…」
「けどオラァ思うだ。ガードマンっつうのは市民…いや、じょす高生の安心・安全を守る大事な仕事だぁ。んで、オラァ例の浅草の現場で味玉ぐんと別れてから今日まで、血の滲むような修行さしだんだよぉ」
「は?修行?…まぁ確かにガードマンは大事な仕事だけど…修行って何よ、修行って。そんなことしなくても赤鹿さん前から誘導完璧じゃん」
「ばかぁ言っちゃいけね。ガードマンの本来の役目は車両誘導じゃね。風にめくれるじょす高生のスカートをサッと押さえるごとだ。誘導はオマケだ」
「はぁあ〜?アンタこそ何馬鹿なこと言っちゃんてんだよ、この変態エロボケハゲ親父がっ!あ、ハゲてはいないけど…そんなことしたらマジで捕まるっつうの!」
「だから修行するんでねぇの。見てけろ」
そういうと赤鹿はベルトを外し、制服の上着を『バッ!』とはだけ、味玉に背中を向けた。
(う?!な、なんだこの背中…まるで鬼の顔のような…)
「どだぁ?味玉ぐん。見事な『ひっとまっする』だんべ?それからホレ」
そう言うと、今度はズボンの裾を捲り上げ、装着していたパワーアンクルのマジックテープをベリベリ言わせて外し、味玉に向かって放り投げてきた。
「ウぉっ⁉︎なんじゃこらっ⁉︎」
受け止めきれず、危うく鉄板の上に落としそうになる。
「片足で5kgある。風呂入る時と自慰する時以外は、ずっと着けたままだぁ。まぁ見とってけろ」
そう言うと赤鹿はゲートを開け、その中央に立った。
左足を前に、右足のかかとは少し浮かし気味だ。軽く前傾姿勢をとるその姿は、確かに一寸の隙もない。
そして、歩道の左方向から駆けてくる、おそらく遅刻した女子高生が見えると、赤鹿は更に数センチ重心を落とした。
交通量が多いはずの国道が、何故か静寂に満ちた気がした。
『ゴクリ!』
味玉のつばきを嚥下する音がやけに大きく響く。
そして、女子高生が今まさにゲートに差しかかろうとしたその時、気まぐれなエロスの女神が突風を呼んだ。
(あ、めくれる!)
味玉がそう思った瞬間。
『ずちゃり!』
安全靴がアスファルト鈍く擦る音とともに、女子高生の斜め左後方に回り込んだ赤鹿の左手が一瞬消えた!…かと思った瞬間、赤鹿は元いた位置に戻り涼しげな顔をして立っている。
女子高生は、何が起きたか全く気づかぬ様子で駆けて行き、学校の正門がある右方の角を曲がって姿を消した。
もちろんスカートはめくれていない。
「ひ、左が全然見えなかった、踏み込みスピードもパネぇ…ス、スゲェ……いや、つうか、アンタ本物の馬鹿だな」
「ふっふっふ…馬鹿で結構。オラァ自分の死に場所を見づけた。この現場でオラァ死ぬ」
あ、赤鹿さん…
( ̄▽ ̄;)💧
そうして再び赤鹿とのガードマン生活が始まった。
確かに、あれならば誰にも気づかれず女子高生のスカートを風から守ることができるだろう。
そう思った味玉の予想は、その日の下校時間、早くも崩れることになるのだが…。