チャリ通は常に向かい風…もちろん人生も!

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連載アホ小説 第8話 『走レ!エロス』

連載アホ小説

ガードマン味玉のFunnyな1日♬

 

バックナンバー

 

第1話 『漢の闘い』

 

第2話 『闘いの後には』

 

第3話 『みっちゃんとマキさん』

 

第4話 『焦げとヤマトと満月と』

 

第5話 『あゝ愛しの権田原』

 

第6話 『無差別級負傷者搬送』

 

第7話 『浅草駅前留学』

 

 

 

第8話 『走レ!エロス』

 

 

 「しかし、こりゃサイ&コーだな」

 

 

オランダ人のプリプリおけつを見送りながら味岡は呟いた。

 

 

味岡玉夫(通称味玉)は、ガードマンである。

管制の長谷部の指示で、しばらく前からこの浅草の道路工事の現場に派遣された。

 

 

現場は隅田川のほとり、川に沿って這う裏路地で、浅草駅前を南北に貫く江戸通りから1本入った一方通行の狭い道路だ。

 

 

路地の両脇には古い酒屋や商店、老舗の麦とろ飯を食わせる店、小ぢんまりしたビジネスホテルが立ち並ぶ。

 

 

堤防があるため隅田川の水面は見えないが、建物の隙間から橋の欄干やスカイツリーがのぞく長閑な場所だ。

 

 

 

長谷部の言った通り、現場道路を南に50mほど行った先には、外国人に人気の小さなゲストハウスがあり、パツキンボインちゃんや小顔タイ人などがバンバン通る。

 

 

現場には、エレベーター付きの地下鉄の出口を新設するらしく、施工の邪魔になる既存のガス管や水道管を数メートル横に移設しなければならない。ついでに、この一帯の古い水道管を耐震用のものに更新する。

 

 

菅のつなぎ目をジャバラ状のジョイントで接続し、多少の地震で管が動いても耐えられるようにするのだそうだ。

 

 

 

しかし、監督は言う

 

 

「まったくバカげとる。こんなことに予算を使っても、ここより上流の水道管がやられたら結局断水するだろうが。浄水場から全ての家庭までの水道管ぜーんぶやらなきゃ、ほとんど意味ないだろう」

 

 

 

サンタクロースみたいなヒゲを生やした、190cmはあろうかという大男だ。顔は『くまモン』みたいに可愛いのだが、初対面だとかなりの威圧感を感じる。道で会ったら目を合わせたくないタイプだ。

 

 

「へぇ…そうなんすね…でも、少しづつでもやっていかないと、いつまで経っても地震に弱い国のままですよね」

 

 

「ま、そらそうだ。それに俺たちゃこれで、おマンマ食ってんだから有難い話ではあるんだけどよ」

 

 

 

この現場監督は、口は悪いが、気さくでいい人だ。

移動販売の八百屋の軽トラが来ると、ブドウやアメリカンチェリーを買って、職人さんやガードマンに振舞ってくれる。

 

 

ユーモアもある。

 

 

着工初日の朝礼ではこうだ。

 

 

「…以上で工事概要の説明を終わる。んで最後にひとつみんなに質問なんだがな」

 

 

 

まん丸い目をひん剥いて、整列した各職方をギロンと眺め回し、再び続ける。

 

 

「見ての通りこの現場は道幅が狭い。朝礼もこんなに狭苦しく纏まらないと出来ない狭さだ。…で、ラジオ体操なんだけどな、どうする?やる?こん中で、どうしてもラジオ体操やりたい!ってヤツいる?」

 

 

シン…

 

 

皆どう答えて良いか分からず黙っている。

 

 

「あれ?誰もいないの?おかしいな…じゃ、体操じゃなくて社交ダンスだったらどうだ?」

 

 

シン…シン…

 

 

冗談なのか本気なのか図りかね皆キョトン顔だ。

 

 

しかし、味岡はひとり、笑いをこらえながら言った。

 

 

「あ、僕ブレイクダンスだったらやりたいかも」

 

 

「あーダメダメ、以前若い土工がクルクル回ってたら首をグキってやって救急車呼んだことがあんだよ。オマケに『ブレイクダンスやってました』って言ったら労災もおりなくてよ」

 

 

ナイス返し。

 

 

「あーそれからな。ここら辺は下町でお年寄りが多い。段差には充分気をつけてもらうようにな。足元がおぼつかないバァさんは要注意だ。ちゃんと手を引いてやるんだぞ。分かったか?ガードマン」

 

 

「ハイっ!分かりました!」

 

 

「じゃ、ハイヒール履いた若いOLさんが来たらどうする?」

 

 

「えーと…お姫様抱っこ?とか?」

 

 

 

バカもん!警察呼ばれるぞ。OLさんには手を触れちゃいかん!」

 

 

 

アハハ!

 

 

ハイ!OLさんには手を触れちゃいけない件、了解!」

 

 

 

それから浅草での楽しい毎日が始まった。

これでもかっ!ってくらい肌を露出したフォーリンピーポーが闊歩する。

 

 

味岡は120%の笑顔で声をかけた。

 

 

「ぐっもーにーーーーーーん♬」

 

 

「Ha〜〜〜〜i ♡」

 

 

 

みんな手を振り笑顔で返してくれる。

日本人にはないノリだ。

 

 

 

地図やガイドブックを手にキョロキョロしている可愛子ちゃんがいたらボーナスタイムだ。

 

 

「めい あい へるぷ ゆ〜?」

 

 

「Oh!Thanks Were is the ASAKUSA station?」

 

 

「ぎんざらいん?おぁ あさくさらいん?」

 

 

「ASAKUSA Line」

 

 

「あい しぃ〜 ごーすとれいと あんど ざっと しぐなる たーん れふと あばうと… ふぃふてぃめーとる。ぜん ぜありず ざ ぽすとおふぃす。ゆーきゃん るっく すてっぷ ふぉー さぶうぇい」

 

 

「Gooooooood!thank you ♡」

 

 

「ゆ〜あ〜 うぇるかむ ぷり〜ず ご〜〜♬」

 

 

文法が合っているのか分からないが、適当に知ってる単語を並べても案外ちゃんと通じるもんだ。

 

 

 

すると同僚のガードマン、赤鹿(あかしか)が、目を丸くして近づいてきた。

 

 

東北訛りの独特のイントネーションで話しかけてくる。

 

 

「こらたまげたぁ…味岡くん、英語さ喋れるのけ?」

 

 

「いや〜、テキトーっすよ。この現場外人が多いって聞いてたんで中学の頃思い出してテキトーに。何しろパツキンちゃんのオンパレードすからね、こんなチャンス滅多にない」

 

 

「ふぅ〜ん、そうなんだぁ。でも、おらぁ外人はこりごりだぁ」

 

 

「え?赤鹿さん、外人となんかあったの?まさか付き合ってたとかじゃないよね?」

 

 

赤鹿は、もうすぐ50歳だと言うけれど、かなりの男前だ。若い頃は相当モテただろう。

 

 

元々は鉄筋屋だったが、腰をいわして辞めたそうだ。

 

 

味岡が、ガードマンも立ちっぱなしだからキツイだろう?と言ったら、鉄筋屋に比べれば屁でもないと、それに勃ちっぱなしには慣れているとも言った。

 

 

 

「いんや、昔フィリピンパブにハマって毎日のように通ってたことがあんだぁ。金がねぇもんだからカードさ切ってよ。したらば、翌月に50万の請求書が来てよぉ」

 

 

うへぇ!50万!…ぱネェっすね」

 

 

「カァちゃんに『あんたぁ、コレどないすっぺ?払えるのけ?』って聞かれてな『ばっかやろう!払えるわけねぇっぺ!ふざけやがってカード会社の野郎、見てろビシッと言ってやっぺ』つって電話したんさぁすみませんっ!分割にしてくださいっ!』つってな!あっはっは!

 

 

 

 

あ、赤鹿さん…。

( ̄▽ ̄;)💧

 

 

「なぁんだ…でも、じゃ、やっぱ好きなんじゃん。外人ちゃん♡」

 

 

「いんや、おらぁ外人にゃ興味さね。じょす高生専門だ。しかもナマ足のみだぁ」

 

 

 

あ、赤鹿さん…。

( ̄▽ ̄;)💧

 

 

「わ、分かりました。…じゃ、JKが通ったら無線で知らせます」

 

 

「おお!よろしく頼っぺよ味岡くん」

 

 

しかし、ここは通学路ではない。

それからの数日間、待てど暮らせどJK は通らなかった。

 

 

何日目だったろうか。

やっとひとりのJKが通り、味岡は喜び勇んで無線を飛ばした。

 

 

「赤鹿さん!来ましたよ!間も無く角を曲がってそっちに行きます!」

 

 

ナヌ!とうとう来たか!よっしゃ!」

 

 

 

JKが角を曲がり味岡の視界から消えておよそ1分。

 

 

「赤鹿さん、どうでした?なかなか可愛子ちゃんだったでしょ?」

 

 

「うんにゃ、ダメだぁ味岡くん。アリャじょす中学生だ。おらぁ中学生は青くて食えね」

 

 

 

あ、赤鹿さん…。

( ̄▽ ̄;)💧

 

 

しかし、それからさらに数日後

一心不乱、真面目に働く味岡らに、イタズラ好きのJKの女神が微笑んだ。

 

 

 

「!?!!!!!」

 

 

 

(マ、マヂか!?)

 

 

 

「至急!至急!赤鹿さん!赤鹿さん!取れますか?!どうぞ!」

 

 

「味岡くん、味岡くん、こちら赤鹿。どした?」

 

 

「前方より女子高生の集団接近!数は…少なくとも30人はいます!おそらく修学旅行の自由行動だと思われます!どうぞ!」

 

 

 

「ナヌぅっっっ!!じょ、じょす高生が集団で自由恋愛の件?!…了解っ!!至急現場に向かう!マスターおあいそっ!『え?!お客さんまだラーメン作ってる最中…』」

 

 

 

ブツっ…

 

 

無線が切れた。

 

 

あたたたた…(>。<)

 

そうか、赤鹿さん昼休憩中だったか…。

間に合うかな?

 

 

 

30秒ほどのち。

交差点の信号待ちで地団駄を踏んでいる赤鹿が、信号が変わるや否や脱兎のごとく走り出し、突進してくる姿が見えた。

 

 

 

「ナマ足ぃぃーーーーーーーーーーーっ!!!!」

 

 

 

鬼の形相で叫びながら疾走してくる。

 

 

アレがヘルニア持ちの50男の走りか?

 

 

自転車で警ら中のデコ助が、赤鹿をギロリと睨む。

母親が、物珍しそうに赤鹿を指差す子供の目を手で覆った。

 

 

(頑張れ!赤鹿さん!)

 

 

 

しかし…

 

 

気まぐれな天使は、いつだって意地悪だ。

あとひとつ信号を渡れば現場到着というところで、また青信号が点滅を始めた。

 

 

構わず突っ切ろうとした赤鹿に、先ほどの警官が警笛をけたたましく鳴らす。

 

 

(なんてモッてない男なんだ…)

 

 

現場では、味岡の目の前を、今まさにJKの集団が「きゃっきゃ」言いながら通り過ぎようとしている。

 

 

我こそは!

と短さを競うようなスカート

初夏の日差しにうっすらとかいた汗でキラキラと輝く素肌

爽やかな柑橘系の香りが、ふんわりと味岡の鼻をくすぐった。

 

 

 

(あ…あ…行ってしまう…どうしよう…あ!そうだ!)

 

 

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そして、信号が変わり、再びマッハで駆けつけた赤鹿が、両手を膝につき激しく肩を上下させながら言った。

 

 

 

「ハァ!ハァ!ハァ!…ナ、ナマ足は?!…ゼイ!ゼイ!」

 

 

 

「赤鹿さん…残念ですが…」

 

 

 

「ジーザス…」

 

 

 

赤鹿はそのままその場に崩れ落ちた。

この倒れ方はヤバイやつだ。

もう立てないだろう。

 

 

 

「でも赤鹿さん、オレ咄嗟にスマホで動画撮っといたんすよ。犯罪だけど」

 

 

「と、友よっ!」

 

 

 

バネ仕掛けの人形のように跳ね起きた赤鹿が、背骨が軋むほど味岡を抱きしめた。

 

 

「あ、赤鹿さん!シ、シヌ!」

 

 

元鉄筋屋の力は侮れない。

 

 

 

そうして、その日の仕事が終わり、ふたりしていつもの焼き鳥屋に来た。

 

 

注文を受けてから食材を買い出しに行く、ふざけたオヤジがやっている小汚い店だ。

他の客が入っているのを見たことがない。

 

 

今日は早く帰りたかったのだが、仕方なくこうなった。

と言うのも…

 

 

「味岡くん、今日1日そのスマホ貸してくんねぇか?明日必ず返すからさぁ」

 

 

「は?何言っちゃんてんだろうね、このアホエロ変態オヤジは…そんなのフツーに無理っしょ。動画ならメールで送りますよ」

 

 

「うんにゃ、おらぁガラケーだから動画はみれね。しかもメールやったことね」

 

 

「でも、携帯貸したら俺が困るし…あ、じゃあ久々に飲みにでも行きますか?JKツマミにして飲むのも悪くないかも」

 

 

「おお!ありがとう味岡くん!もちろんおらが奢るっぺ!」

 

 

 

もう店に入って軽く3時間は過ぎていた。

赤鹿は、2時間ほど前からネギマを手にしたまま、延々スマホの画面に見入っている。

 

 

ブツブツ何かを呟いてニヤニヤしては、時折顔をしかめたりしている。

 

 

会話も出来ず、味岡はひや酒のピッチが上がり、手元が怪しくなってきた。

 

 

視界もぶれ、赤鹿が3人くらいに見える。

 

 

不気味だ…

 

 

例のごとく他に客はおらず、オヤジはカウンターの中で、ふんぞり返って高いびきだ。

 

 

黒板にミミズがのたくったような字で書かれた、本日のおすすめ『鯖の塩焼き』は、客がひとりもいないのにオヤジは『売り切れた』と言い放った。

 

 

 

味岡は思う。

 

 

アレはホントにそうなんだな…

昔の人はよく言ったものだ。

 

 

『類をもって集まる』

 

 

 

JKの嬌声が繰り返し繰り返し流れる他は

静まり返った焼き鳥屋

 

 

 

アホウが集う

 

夜は更ける

 

そして明日が忍び寄る

 

 

 

 

第9話『ご安全にっ!』に続く…

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連載アホ小説 『第6話 無差別級負傷者搬送』

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ガードマン味玉のFunnyな1日♬

 

バックナンバー

第1話 『漢の闘い』

 

第2話 『闘いの後には』

 

第3話 『みっちゃんとマキさん』

 

第4話 『焦げとヤマトと満月と』 

 

第5話 『あゝ愛しの権田原』

 

 

 

第6話 『無差別級負傷者搬送』

 

 

味岡玉夫(通称味玉)は、軽く酔いが残る頭を振りながら指定された朝食会場に入った。

 

 

大して広くない食堂、ギュウギュウに詰め込まれたテーブルの上に並んでいた朝食は、薄造り…とまでは言わないが、呆れるほどの薄さの小さな鮭の切れ端、温泉たまご、梅干し、味付け海苔という、これでもか!というくらい原価を削り落としたものだった。

 


7割がたの席が埋まり、大豆生田、権田原と合わせ 3人揃って座れる席は見当たらない。それぞれ空いている席に座った。

 

 

女子中学生じゃあるまいし…と、味岡は特にどうとも思わなかったが、大豆生田は、同席できないことを大袈裟に残念がっていた。

 

 

権田原は、はじめこそ朝食の貧相さに顔をしかめていたが、メシが食えること自体で満足なのだろう。嬉々として箸を持つ様子が味岡の視界に入った。

 

 

味岡は、3分ほどで朝食をかっこみ、食器返却コーナーの小窓にトレーを突っ込むと、のんびり食べている大豆生田と、お茶をすすってシーシーいってる権田原を置いて講義会場へ向かった。

 

 

事前に試験勉強をほとんどしていない味岡は、講義を集中して聴くことのみで合格するつもりだ。ふたりと離れた席に着いて講義に集中したかったし、出来れば一番前の席を確保したかった。

 

 

 


開始時間の8時キッカリになると、ドアがガラリと開いて教官たちがゾロゾロと教室に入ってきた。

 

 

前方に並べらた椅子に腰掛け、受講生と向き合う。

最後尾につけていた教官のひとりは席に座らず、そのまま中央の教壇に立った。

 


「みなさん、おはようございます!

 


「おはようございます」

 

 


「…お前ら、一体ここに何しに来た…あぁん?検定受かりに来たんじゃないのか?なんだ、その間が抜けた挨拶は!もう一回行くぞ!おはようございます!!

 


おはようございます!!

 


声が小さい!!おはようございます!!!

 


おはようございます!!!

 


声を合わせろっ!!!おはようございます!!!!

 


おはようございます!!!!

 


もう1回!!!!おはようございます!!!!!

 


おはようございます!!!!!

 

 


「よし、いいだろう。それでは、開校式を始める。まずは理事長のお言葉…全員起立っ!気をつけぇー!敬礼っ!休めっ!

 


(うへぇ…マジか?コレが2日間続くのか…参ったな。しかもプログラムによると、休憩はほとんどないし…メシの時間も30分しかねぇじゃんか!んで…講義が7時限、そのあと実技が3時限、終わるのは夜の7時半で、そのあとは体育館で自主練してもいいだって?…すげぇな)

 

 


そうして始まった講義は、まるで拷問だった。

 

とにかく眠い。

 


この教官連中は天才だな。

こんなとこでガードマンに講義してねぇで、不眠症で悩んでいる人たちのところに行って眠らせてあげればいいんだ。

何しろ経費は交通費と人件費だけ、ボロ儲けじゃん…

 

 


しかし、必死に拷問に耐えていると、文字通りひとつだけ目の覚めるような場面があった。それは、警備業法の講義がひと区切りしてテキストのページをめくり、道路交通法の章を開い時だった。

 

 

担当の教官が入れ替わり、ドSのAV女優のような女教官が演台に上がると、持っていた教鞭を高々と振り上げ、勢いよく演台に叩きつけた。

 


ピシッ!!

 


という乾いた音に驚いて顔をあげる受講生。

女教官は冷たい視線で教室を見渡すと、おもむろに口を開いた。

 


「…起きろボンクラども。最初に1番重要なことを言っておく…まぁ試験には絶対出ないけどね。1度しか言わないから身体中の穴という穴をカッポジってよく聞いとけ」

 


(なんだ?試験に出ないのに1番重要なことって…)

 


妖しげな緊張感が走る中、女教官は背筋をピンと伸ばした姿勢で真っ直ぐ前を見つめたまま、よく通る澄んだ声で言放った。

 


「道路交通法第14条第4項…児童又は幼児が小学校、幼稚園、幼保連携型認定こども園その他の教育又は保育のための施設に通うため道路を通行している場合において、誘導、合図その他適当な措置をとることが必要と認められる場所については、警察官等その他その場所に居合わせた者は、これらの措置をとることにより、児童又は幼児が安全に道路を通行することができるように努めなければならない」

 

 


女教官は再び教室をぐるりと見回し、言葉を続けた。

 


「分かった?…あんた達は居合わせるでしょう?その場所に。そうしたらこの条文を思い出しなさい。そして守るのよ、児童と幼児をね。何しろ法律で定められているんだから、命がけで、身体を張って守りなさい。分かったわね!

 


はいっ!!

 


声が小さいっ!もう1度!分かったわね!!

 


ハイッ!!!

 


「よろしい。では講義を終了する。3分休憩。全員起立っ!

 

 

 

喫煙所でエコーを咥え思った。

 

 


うーむ…

なかなか いいオンナだな、あの教官。

あの人だったら服従してもいいな…そして命令されたい♡

 

『守りなさいっ!私をっ!』

 

なんつって、ウッシッシ…

 

 


などとアホな妄想をしていると、アッという間に3分終了。

 

 

お次は実技実習だ。

慌てて体育館に走る。

 

 


「それでは、これより実技実習を行う。実習の1限目は『負傷者の搬送要領』まずは、背の順に整列…と…おい、ゼッケン8番、前に出ろ…グズグズするな!よし、そこに立て」

 

 


ひときわ背の高い8番が教官の指差す場所に立つ。

 


背の高い順に整列、8番基準、6列縦隊にぃ〜〜集まれっ!!

 


オウッ!!

 


味岡も周りのガードマンの身長を確認しながら『ここら辺かな?』と思う場所に走った。

 


「よし、まずは模範演技、一度しかやらんからよく見ていろよ…負傷者は右足を捻挫、骨折の可能性あり、警備員役は肩を貸して負傷者を安全な場所まで速やかに移動、それでは始めっ!

 


合図と共に別の教官ふたりが、警備員役と負傷者役を演じた。

 

 

負傷している方と反対の腕…この場合左腕を肩に担ぎ、手首をガッチリ握る。負傷者には左足を地面についてもらい片足立ち、右腰骨で相手を引っ掛けるようにして持ち上げ、負傷してる右足が地面につかないよう一歩づつ進む。大して難しそうでもない。

 


楽勝だな。

 


「それではこれより、警備員役、負傷者役に分かれてパートナーを組む。奇数列の者は回れ右、偶数列の者はそのまま待機、向かい合った者同士がパートナーだ。分かったな。では、奇数列のみ、まわれ〜〜〜右っ!!

 

 


ギョッとした。

 


くるりと回れ右した味岡の前に立っていたのは、制服のボタンとゼッケンの紐がはち切れそうな巨体に、馬鹿でかい瓜みいたいな頭をのっけた若者だった。

 

 

粘っこい脂汗をダラダラ流した顔は気弱そうで、気味の悪い薄笑いを浮かべている。

 

 

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「エヘヘ…よろしくお願いします」

 


「ああ…オレ味岡、よろしくね…って、そうじゃないだろう!君いったい体重何キロあんの?」

 


「ハイ!138kgです♡」


「は?なにそれ?そんなの運べるわけないじゃん!…それに、なんでそんな嬉しそうな顔で答えるんだよ」

 


「あ、すみません…ママがいつも『ふとしちゃんは身体がおっきくてカッコいいね♡沢山ご飯食べてエライね♡』って褒めてくれるんで…あ!ボクの名前ふとしって言うんです!未熟児で生まれたボクに太く逞しく成長して欲しいってママがつけてくれたんです。いいでしょ、エヘヘ♡」

 


「知らんしっ!とにかく俺はそんなデカイ身体を担いで運べないよ。悪いけど誰かとパートナー代わってくんない?」

 


「え?…でも、そしたらボクパートナーいなくなっちゃうし…」

 

 


涙ぐんでいる。

 


「いやいやいや…そう言われても…」

 


オイっ!そこっ!なにをゴチャゴチャやっている!私語厳禁だぞっ!

 


ハ、ハイッ!すみません!…しかし教官、この体重差は正直キツイっす!自分腰いわしちゃいます!」

 

 


教官がツカツカやってきて、味岡とふとしちゃんをしげしげと交互に眺め、やがて言った。

 


「問題ない、やれ」

 


「マジすかポリス!そんな…」

 


「つべこべ言うなっ!お前なら出来る!それでは開始っ!!

 

 


マ…マジか…

しかしこうなったらやるしかない。

根性見せる時だ。

アムロいきまーーーーーーーーーす!!

 


フンガッ!…オワっ?!」

 


太ちゃんの左手首をガッチリ握って引っ張るように肩に担ごうとしたが、汗でヌルヌルしているため『スッポン』と抜けた。

 


「…ふとしちゃん、オマエ何を食ったら こんな高品質のローションみたいな汗を分泌できんの?持ちにくいし、メチャメチャ気持ち悪から汗拭いてくんない?」

 


「ご、ごめんなさい。今すぐ拭きます!……ハイ!どうですか?」

 

 


しかし、拭いても拭いても分泌される ふとし液は味岡のグリップを拒む。

 

 

仕方なく味岡は、自分の肩にかかっている警笛の紐をほどき、ふとしちゃんの左手首にグルグルと巻き、余った紐の部分で自分の手のひらも巻き、しっかりと握った。

 

 

 

これで大丈夫だろう。

 


「んじゃ行くぞ!(スゥーーーーっ!と息を吸い)かぁちゃんのためならエーンヤコーラッ!!」

 


痛い!痛い!痛い!痛い!

 


「我慢しろ!ふとしちゃん、ママが見てるぞ!」

 


痛い!痛い!手首が痛いよぅママ~~!

 

 


ふとし液に混じり、目から鼻からふとし汁が溢れて味岡の首筋にトロリと垂れる…が、気にしてられない。

 


「もう少しだ!…あと1歩…オリャっ!

 


ぐ・き ・♡

 


「❗️❗️❓❗️」

 


「エ~ン、エ~ン!ママ~ボクやりきったよ~~!頑張ったよ~~!」

 


「ば、馬鹿野郎…頑張ったのは俺のほうだ…アツツツツツ!」

 


「どうしたの?味岡さん」

 


「こ…腰が…」

 


「大変だ!きょうかーん!きょうかーん!

 

 


見回りながら、他のガードマン達の負傷者搬送にダメ出しをていた教官が、床に這いつくばり悶え苦しむ味岡と、心配そうに覗き込むふとしちゃんの元に歩み寄ってきた。

 


「どうした?」

 


「大変なんです!味岡さんが腰を痛めちゃいまして!教官、次ボクの番なんですけど、右足じゃなくて腰を負傷した人の搬送方法を教えてください!」

 


殺意…

 

 

だが、痛くて声が出ない…

 


「そうか…試験には出ないが応用編ということで特別に教えてやろう。まずはこうして負傷者の足を持ち上げてだな…」

 

 


ギャーーーーーーー!!!

 

 


そうして、無事?にその日の実習は終わった。

 

 

幸い味岡の腰は大したことはなく、氷で冷やして少し休んだら回復した。

 

 

長らく彼女もいない味岡は、しばらく腰を使っていない。にも関わらず、この脅威の回復力は、やはり若い頃の精進が実を結んだ結果なのだろう。

 

 


医務室に寄り、湿布をもらって客室に戻ると権田原が待ちかねた、といった顔で味岡を迎えた。

 


「カレー味のウ◯コと、ウ◯コ味のウ◯コだったらどっち食う?味岡くんオイチョカブでもやんない?」

 


「いや、勘弁してください権田原さん、自分もう寝ます…それに、どっちも、ほぼウ◯コじゃねぇか…」

 

 

つまらなそうに口をへの字にした権田原を尻目に2段ベッドのハシゴを登った。

 


ゴン…

 

 


ベッドとの隙間が狭いため派手に天井に頭をぶつけるが、気にもとめず、そのまま横に転がるように硬い布団に横たわった。

 


明日は雨だそうだ。

 

 


月は雲に隠れ

街灯もなく

炭で塗りつぶしたような闇が

合宿所とそれを囲んだ森を怪しく包んだ

 


明日はいよいよ終了考査

 

 

合格のポイントは…

ふとしちゃんの動きだな。

彼をパートナーにしたら負傷者搬送は0点必至だ。

 


どうやったら、ふとしちゃんとパートナーを組むことを回避できるか…

 


作戦を練るも妙案が浮かばぬまま

味岡は深い眠りに落ちていった。

 

 

 

 

 


第7話 『浅草駅前留学』に続く…

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ガードマン味玉のFunnyな1日♬ Season1 まとめ

連載アホ小説

ガードマン味玉のFunnyな1日♬ Season1 まとめ

 

登場人物
  • 味岡玉夫(通称味玉)・・・主人公のガードマン
  • ヤマト・・・味玉が拾ってきた黒猫
  • 長谷部・・・味玉が勤める警備会社の管制(顧客の依頼によりガードマンを現場に配置する)
  • 赤鹿・・・味玉の同僚ガードマン、東北出身のJK好き
  • 権田原・・・交通誘導警備業務2級資格の合宿で出会った変なガードマン、接頭文をつけないと喋ることができない。
  • マキさん・・・味玉が住む離れの大家さん、料理が得意だが時々焦がすオッチョコチョイ
  • 今日香ちゃん・・・しっかり者で優しいマキさんの娘
  • みっちゃん・・・味玉行きつけのコンビニで働く可愛い店員さん

 

 

物語

ガードマン味玉が、おかしな仲間と繰り広げるお馬鹿な話しです。意味のある事や、ためになる事は何ひとつ書かれていません。

登場する人物やお店は全て実在し、ストーリーも実際に起こった出来事を脚色したノンフィクション・フィクション全9話です。

 

 

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連載アホ小説 『第5話 あゝ愛しの権田原』

連載アホ小説

ガードマン味玉のFunnyな1日♬

第5話 あゝ愛しの権田原


「なんもねえ…」



ある程度覚悟はしていたが、ここまでとは…。



駅のロータリー…というより「ちょっとした広場」といったほうがいいだろう。広場の中央にニョキッと伸びる錆びた柱時計の針は、午後9時を廻ったばかり。



ぽつり、ぽつり建つ、うらぶれた商店や小料理屋は、みなシャッターを下ろしていた。



昼間であれば そのシャッターが開くのか甚だ怪しい佇まいでもあるため、それが時間の所為なのか今ひとつ判断しかねる。



「しまったな…メシくらい食ってくりゃ良かった。コンビニも見当たらねえし…しかし、タバコを買い込んできたのだけは、正解だったぜ。さて、どうするか…」




味岡玉夫(通称味玉)は、ガードマンである。
管制(顧客の依頼に合わせガードマンを現場に配置する部署)の長谷部に請われ、国家資格である『交通誘導警備業務2級』の資格取得のためこの片田舎にやってきた。



1泊2日の合宿を行い講義と実技実習、最後には検定考査がある。
朝が早いため、余程近くに住んでいなければ、前日からの宿泊が必要だ。



ガードマンが取得できる主な国家資格は全部で6種類、交通誘導警備業務の他に

  • 施設警備業務
  • 雑踏警備業務
  • 貴重品運搬警備業務
  • 空港保安警備業務
  • 核燃料物質等危険物運搬警備業務

があり、それぞれ1級と2級がある。




味岡は、個人的には「核燃料物質等危険物運搬警備業務」という資格に強い興味を覚えた。



「なんだ?その資格…核燃料運んでて、万が一放射能漏れとかあっても、ガードマン如きがいくらアタフタしてもクソの役にも立たないじゃんね!それに、もしテロリストとかが核燃料奪いにきても、予備講習で訓練した『徒手』と『警戒棒』で対抗すんだべ?『殺してください!』って言ってるようなもんだ!」




しかし、味岡は、そのあまりにも無意味でバカバカしい存在意義に惹かれた。



長谷部に「交通誘導2級合格したら次は核燃料受けさせてくださいよ」って半分本気で言ったのだが電話をガチャ切りされてしまった。



とても残念だ。





何処かに開いてる居酒屋かコンビニがないかとウロウロしたがすぐに無駄だと分かった。駅から十数メートルも離れると、明かりの消えた住宅と畑と田んぼと山しかない。



晩メシは、諦めて合宿所へ向かうことにした。



街灯ひとつない山道と、事前に配布された地図のテキトーさに辟易しながら、月明かりと携帯のライトを頼りに、ようやく合宿所辿り着いた時には既に午後10時になっていた。



警備業協会が運営する4階建ての古い合宿所だ。



自動ドアを抜けると、ボンヤリと明かりのついたロビー右奥に位置する、無人のフロントカウンターに向け声をかける。



「すんませーん、明日からの合宿に参加する味岡ですけどー……すんませーん!」




何度目かの呼びかけに、ようやくカウンターの奥のカーテンから、不機嫌極まりないオヤジが、欠伸を嚙み殺しながらヌッと姿を現した。



「…君ねぇ、いま何時だと思ってんの?検定ナメてんのか?ほかの受験生はとっくにチェックインして今頃必死に勉強してるよ。それに人の迷惑を考えろってんだよ、まったく。コッチは、君待ちで仮眠に入れなかったんだよ。どうしてくれんのよ、寝不足で会計間違えたりしたら。責任取ってくれんの?」



「はぁ…すみませんでした。もらった案内に『チェックインは、なるべく早めに』としか書いてなかったもんで…それに、あんた、さっきまで寝てましたよね?」




フロント係は目を剥いて味岡を睨み、そして薄く笑いながら言った。



「ほう…なかなかナメた口聞く小僧だな。しかし、いつまでその軽口が続くかな?…まぁいいだろう。細かい説明はしないから、とっとと部屋に行け。分からないことがあってもフロントに電話するなよ。相部屋のやつに聞け。ほら」




投げるようにして差し出されたルームキーを受け取り、階段で2階に上がる。



薄暗く、それが汚れなのか模様なのか判断のつかない絨毯を足元とともに確かめながら、キーが指し示す、廊下の一番奥の角部屋に辿り着いた。



「しつれいしま〜〜す♬」




ドアを開けると、6畳ほどの和室の両壁際にそれぞれ小ぶりの2段ベッド、上段のベッドと天井の隙間はほとんどない。



部屋の真ん中に100cm角程の正方形のテーブル、壁に掛かったハンガーが4つ、浴衣、ゴミ箱…以上である。



他には何もない。



冷蔵庫も、テレビも、トイレも風呂も、タオルも、歯ブラシも、お茶セットも…なーんもない。




呆然と立ち尽くしていると…



「あれ?味岡さんじゃないですか。同室だったんですね、嬉しいなぁ」



「おお!大豆生田くんじゃないか!そうかぁ、おんなじかぁ。良かった良かった」



大豆生田(おおまめうだ)くんは、予備講習で負傷者搬送と徒手の組手でパートナーを組み、仲良くなった大手警備会社のガードマンだ。



まだ20代なのだが、幼い頃父親を亡くし、とても苦労したらしい。将来は、調理師免許を取り、夢である焼き鳥屋を開いてお袋さんに楽をさせたいと、ガードマンの仕事をしてお金を貯めているという、しっかり者のイイ奴だ。



「味岡さん、紹介します。こちら同室の田中さんと権田原さんです」



「どうも、味岡です。よろしくお願いします」



田中さんと言われた男は、薄暗い2段ベッドの下段に胡座をかいたまま、ペコリと頭を下げ、フイッとそっぽを向き再び教本に目を落とした。



ヒョロっとした短躯にアンバランスな頭部のデカさ、子泣きジジイみたいな顔をした年齢不詳の男だ。



権田原さんは、還暦前後くらいだろう。ふっくらした体型に、えべっさんのようなニコニコ顔を乗っけた人懐っこいオッさんだ。



権田原さんは、その顔をさらにニッコリ綻ばせて手を差し伸べた。



「味岡くん、昨日池袋で警察官殴ってなかった?よろしくね」



「え?…いえ、殴ってませんが…池袋にも行ってないし…よろしくお願いします」




とまいどいながら、差し出された手を握り返す。


スゴイ力だ。



「あはは!ビックリしたでしょ?味岡さん。権田原さんはですね、喋りはじめに必ず接頭語…というか何かしらワンフレーズくっつけてからでないと話ができないんですって。面白いでしょ」



大豆生田くんが愉快そうに説明してくれた。



「大豆生田くん、僕のちん◯ん触っていいよ。嫌だなぁ、僕は真面目にやってるのに(笑)」



「………」



こりゃ、なかなかのツワモノだな…。


よし!負けてらんねぇぞ!



「ワカメちゃんのパンツって、ありゃ見せパンですかね?権田原さん、取り敢えず乾杯でもしませんか?」



「マックなら分かるけど、ウィンドウズってどんなハンバーガー出すのかな。味岡くん、大賛成♡一緒にビール買いに行こう」





自販機のある場所に権田原さんの案内でやってきた。



長い廊下を進み、階段で4階まで登らないといけないため、何度も買い足すのは少々面倒だ。



部屋から持ってきたバスタオルを風呂敷代わりにして、500mlの缶ビールとチューハイをこれでもかってくらい包み込み、サンタクロースみたいに背中に担いで部屋に戻った。



3人で角テーブルを囲む。


子泣きジジ…いや、田中はひとり耳栓をして、まだ教本を見ながらブツブツ呟いている。
放っておこう。



「北海道の地名ってなんかエロくない?雄鎮内(おちんない)とかさ。それにしても味岡くん余裕だね。バッチリ勉強してきたの?」



「小学校の頃、裏山に隠したエロ本がなくなってた時より酷い絶望感ってありますか?いえ、軽く問題集さらったくらいですけど…権田原さんはどうなんです?」



「バイクで行くのがツーリングなら、車で行くのはフォーリングだよね?僕はもう完璧。問題集10回はやったよ。実技も散々練習したし」



「トムとジェリーってどっちが好きでした?ボク断然トム派です。へぇ!じゃ、安心ですね、今夜は飲みましょ!前祝いです」





味岡の必死の攻撃に権田原は余裕のカウンター



大豆生田はふたりの会話を聴きながらケラケラ笑っている



田中を除いた楽しい飲み会は、いつ終わるともなく続く



知らぬが仏


聞かぬが花


世間知らずの高枕





第6話『無差別級負傷者搬送』に続く
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連載アホ小説 『第4話 焦げとヤマトと満月と』

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ガードマン味玉のFunnyな1日♬

 

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第1話「漢の闘い」はこちら💁‍♂️

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第2話「闘いの後には」はあちら💁‍♀️

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第3話「みっちゃんとマキさん」はどちら🙋‍♂️

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第4話 焦げとヤマトと満月と

 

犬を警護していた。

…の間違いではない。

 


今日の現場は、テナントに都市銀行の支店が入ったビルの外壁塗装工事である。

 

 

味岡玉夫(通称味玉)は、1時間ほど前まで、ビルの前の歩道で歩行者誘導をしていた。

 


組んだ足場に作業員が登り、まずは古い塗装を研磨する。足場はシートで覆われているので、削った壁面のカケラなどが落ちてきて通行人に当たることは、まずない。

 

 

しかし、足場とそれを囲うカラーコーンのせいで狭くなった歩道は、自転車やらベビーカーやらが行き違うには少々狭い。ガードマンによる交通整理が必要なのだ。

 

 


度々テレビで取り上げられる人気の商店街が近いせいか、平日にも関わらず、現場前の歩道は朝からウジャウジャ歩行者がいた。

 


雲ひとつない初夏の太陽と、途切れることのない人の群れに、ウンザリしながら歩行者を誘導していたとき…

 


「ちょっと!そこのア~タ!こっち来てくれる?」

 

 


まるで周囲を威嚇するかのように尖ったレンズのフチなしメガネをかけ、ゴッテゴテのアクセサリで全身を完全武装したマダムがいた。

 

 

鶏ガラのように痩せているそのマダムは、銀行の入り口の前で仁王立ちし、神経質そうな目で味岡を睨んでいる。

 

 

「あ、はい!すみません。ご迷惑をおかけしておりまして…銀行は通常通り営業していますので、どうぞお入りください」

 


「そんなことは見れば分かるのよ。それよりアタクシ、お金を…そうね、300万円ばかし下ろしてくるから、そのあいだ大吾郎ちゃんを見ていてくれないかしら?」

 


「は?ダイゴロウちゃん?」

 

 


気味の悪い微笑を浮かべ、マダムが投げた視線の先を見ると、へんてこりんな顔をした小型犬が、ピンクの洋服を着てプルプル震えている。

ガードパイプに、赤くてキラキラしたリードで繋がれている。

 

 

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スゲー馬鹿そうな犬だな…

 


「そう♡大吾郎ちゃん。この子は、とっても人見知りで臆病だから細心の注意を払ってボディガードにあたってくれるかしらん。それに、数々のドッグショーで優勝した優秀な先祖の血統を引く、エリート中のエリートざぁますから、この子に万が一の事があったりしたら、ただじゃおかないですわよ。じゃ、ごめんあ〜さぁせ」

 


「ちょ、ま、いやオレ、歩行者の誘導が…って、おーーーい!!」

 

 

 

…行ってしまった。

この時間だと窓口はかなり込み合うぞ…まいったな。

 


しかし、頼まれたものはしょうがない。

いい加減 歩行者誘導にもウンザリしていたところだし、通勤の自転車も少なくなってきた。

歩道は大丈夫だろう。

 

 

歩行者には自己責任で通行願うとして、ダイゴロウちゃんとやらをガードしよう。

 

 

ウマく行けばチップを弾んでもらえるかもしれないぞ…ウッシッシ!

 

 

 


そうして、かれこれ1時間

ダイゴロウちゃんの前に立哨して周囲を警戒している。

 


通行人が、チラと味岡を見て通り過ぎる。

ほとんどの人は、ガードマンなんかには興味を示さないが、時折不思議そうな顔で2度見されることもある。

 

 

転倒防止を兼ねた買い物カートの持ち手を掴んだまま立ち止まり、ジッと哀れむような面持ちで味岡を見つめるおばぁちゃんもいた。

 


…なんだかな。

 

 

自分がやっていることが、なにやらバカバカしくなりかけたその時

 

 

「なにやってんの?おっちゃん」

 

 


背後から不意にかけられた、幼い女の子の声に少々驚く。振り返ると、小学3年生くらいの女の子が立っていた。

 


「え…?何って…その…何やってんだろオレ」

 


「犬を守ってるの?」

 


「まぁ…そうだな。守ってる。このとてつもなくバカそうな犬を」

 


「あはは!確かに個性的な顔してるね。でも可愛いじゃん!」

 


「ん~~可愛いか?おっちゃんには、バカ犬にしか見えないけどね。それよりキミ、学校は?」

 


「あ!大変!」

 

 


あろうことか…

女の子が指差す味岡の足元めがけ、後ろ脚をヒョコッと持ち上げた大吾郎ちゃんが、馬鹿ヅラで放尿しているではないか!

 

 


ああっ!!すんだよ、このバカ犬がっ!!

 


「あはは~!じゃーねーおっちゃん!今日は開校記念日で休みだよ~ん♬」

 

 


踊るようにスキップしながら行ってしまった。

 

 


…そうか、だから朝からやけに人が多かったんだな。

 

 

 

少々暑いが、この近所の小学生と、その親にとっては格好のお出かけ日和だ。

 


大吾郎は、ほったらかして、向かいの公園の水道で、ジャバジャバとズボンの裾と安全靴をすすいだ。靴下には穴が空いていたので、丸めてゴミ箱に捨てた。

 


濡れた靴をグッチョグッチョ言わせながら戻ると、ようやく銀行から出てきた悪趣味マダムがバカ犬を抱えて湯気をたてている。

 


マダムは、逆ギレしようとした味岡に文句を言う間も与えず、もはや人間のものとは思えない金切り声で、解読不能な罵詈雑言をまくし立て、プリプリしながら去っていった。

 

もちろんチップなどある訳もない。

 

 


やれやれ…ヒドイ目にあったな…。

 

 


歩行者誘導に戻り、休校でテンションが上がっているのか縦横無尽に走り回る小学生を、半ばマジ切れで窘め続け、ようやくその日の仕事が終わった。

 

 

疲労困憊の足取りで家に帰ると、今日香ちゃんが庭で、ぎこちなく金属バットを振っている。

素振りのつもりだろうか。

 

 

「ただいま、今日香ちゃん。どうしたの?バットなんか振り回して。学校の窓ガラスという窓ガラスを叩き割って、逃走用の盗んだバイクで走り出す練習?」

 

 

「あーお帰り玉ちゃん。(ブンっ)全然違うよ。来月の球技大会に向けた練習試合を(ブンっ)隣のクラスとする前に(ブンっ)明日の体育の授業でバッティングの(ブンっ)練習をするから、その練習(ブンっ)してるの」

 

 

「へぇ…そりゃまた熱心なことで。今時の中学生は随分念入りに練習に練習を重ねるんだね」

 

 

「まぁね…あ、そうそう。ママが一緒に夕飯どう?って言ってたよ。ご愁傷様」

 

 

 

マジか…

マキさんがオレを夕食に誘うということはアレだ。

月に何度か訪れる「新作メニュー試食会」の日だ。

 

 

 

普段は絶品料理を作るマキさんだが、その料理への飽くなき探究心が暴走し、得も言われぬ新作料理を捻り出す。

 

 

そして、その新作創りにノメリ込みすぎるのだろう。うわの空で同時に作る他のおかずは、とにかく焦がす。

 

 

焼き物や揚げ物にとどまらず、煮物や味噌汁まで焦がすのだ。

 

 

 

ま、しょうがない。

大家さんのご意向には逆らえない。

それにマキさんがブチ切れると、抑えていた広島弁が出てメッチャ怖いからな。

 

 

 

さらに重くなった足取りで、今日香ちゃんとふたり食堂に入ると「待ってました!」とばかりにマキさんが走り寄ってきた。

 

 

「もぉ〜!遅かったじゃないの、ふたりともぉ〜!こっちは準備は万端よ。さ、さ、座って座って!」

 

 

 

テーブルにつき、ため息とも深呼吸ともとれない深い呼吸をする。

 

 

マキさんはハナ歌を歌いながらキッチンへ向かい、両手に皿を持って戻ってきた。得体の知れない不気味な物体が載っている大ぶりの皿がふたりの前に差し出される。

 

 

「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャ〜〜ン!はい!今回の新作メニューはコレ!『天然イクラオクラ納豆の小倉あん添え、わさびソースを絡めて♡』よ。さぁ、召し上がれ!」

 

 

「マキさん…確かにオレこの前、納豆好きって言ったけど…甘いものは…」

 

 

「え?玉ちゃん甘いものダメだったっけ?ま、大丈夫大丈夫。わさびソースが中和してくれて絶妙なバランスに…」

 

 

 

かぶせるように畳み掛けるマキさんに、今日香ちゃんがさらにかぶせた。

 

 

「あ!私ダイエット中だから、あんこはダメだ!それに宿題1個やり忘れてた。玉ちゃん、私の分もよろしくね!」

 

 

「うそーーーーん!」

 

 

 

味岡の反応を確認するよりも早く、今日香ちゃんは自分の部屋に走り去っていった。

 

 

果たして、ふたり分の皿が味岡の前に置かれる。

マキさんは、両手でテーブルに頬杖をつき、目をキラキラさせながら、ドッキドキのワックワク〜♬といった表情で味岡を見つめている。

 

 

「あれ?なんかおかしいな?腹の調子が…」

 

 

マキさんの表情が曇る。

 

 

「あん?なんか言った?」

 

 

「いや、そのぉ…昼メシに食った海鮮丼が良くなかったのかな…そういや、なんかヘンな匂いがしたんすよね〜」

 

 

「………」

 

 

「い、いや、食べますよ!食べますとも!でもですね…2人前は、どうかな〜〜?なんて…てへっ♡」

 

 

「玉…おめぇ男のくせに、ナニをウジウジと言ぃよんならぁ…ぶちウマイけぇ四の五の言わんで喰うてみぃや…」

 

 

「ハ…ハイッ!いただきますっ!」

 

 

 

自我崩壊を防ぐため、自己防衛本能が働いたのだろう。「ハッ」っと記憶が戻った時には、離れのちゃぶ台の前でボウっと座っていた。

 

 

ものすごく気持ち悪い上に、口の中に鉄が焦げたようなあと味が残っている。

 

 

流しで口を何度もゆすいでいると、携帯の着信を告げる、オフ・スプリングスの『Pretty Fly 』が鳴り響いた。

 

 

スマホの画面には管制の長谷部の名前が表示されている。

 

 

チッ…

 

 

「あーはい、味岡です。悪いけどサッサと要件言ってくれる?ちょっと今、アンタのアホ話に付き合ってる余裕がないんだ」

 

 

「いきなり何よ。もう〜味岡くんのイケズぅ〜」

 

 

「だからさ…なんなんだよ」

 

 

「アラ?マジなのね。あのさ味岡くん、キミ2級受けてみない?てか是非受けてくんない?」

 

 

「え?2級って交通誘導警備2級ですか?そりゃ、受けていいなら受けますけど…オレまだ会社入って2ヶ月ですよ。ホントにいいんですか?」

 

 

「いや〜、各警備会社に振り分けられた特別講習の受講者枠は限られてるからさ…今までは、ある程度実績を残したベテランに受験してもらってたんだけどね。なにしろ、いい歳のジイさんばかりだからさ…去年はウチの支店から6人受けて、全員不合格だったんだよ。本社からネチネチ言われて参ってるんだよ。味岡くんなら合格できるっしょ?」

 

 

「そらまぁ、国家試験とは言え合格率6割近くあるんでしょ?だったら、むしろ、どうやったら落ちるのかが分からない感じですけどね」

 

 

「んじゃ決まりね!詳しいことは追って連絡するから。もちろん予備講習も本試験も費用は全部会社で出すから!よろしくねー!」

 

 

 

ガチャッ…ツー…ツー…

 

 

 

おお!

ついにオレも2級検定を受験する時が来たか!

 

 

合格すれば資格手当も出るし、これで懸案だったヤマトのエサ代もなんとかなるな!

今日は散々な1日だったけど、やっぱマジメにやってりゃいいことあるンだなぁ…

 

 

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記憶が無いながらも貰ってきたのであろう焦げに焦げたサバのみりん干しには目もくれず縁側で丸まってるヤマトを横目に、味岡は流しの上の開き戸からウィスキのボトルを引っ張り出した。

 

 

 

口直し兼 前祝いだ♬

 

 

とんでもなく過酷な予備講習と本試験が待つとも知らない味岡は、ひとり気分を良くし、ロックグラスにドボドボとスコッチウィスキを注ぐ。

 

 

冷凍庫がないため氷もない。

ストレートであおる。

 

 

ふと窓の外を見ると、見事な満月が浮かんでいた。

いつのまにか部屋を抜け出したヤマトが満月に映える。

 

 

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鋭い紫外線に熱せられたアスファルトや、むき出しの土くれは、とうに放射冷却を済ませた。

 

 

代わって闇に浮かぶ満月が、空気をひんやりと冷やし始めている。

 

 

 

その冷たい夜風の心地良さに

マキさんと同じハナ歌を歌いながら

せんべい布団を広げ

 

 

「ゴロリ」

 

 

と横になった。

 

 

 

2分と経たず

ハナ歌は寝息に変わった。

 

 

 

 

第5話「あゝ愛しの権田原」に続く

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連載アホ小説 『第3話 みっちゃんとマキさん』

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第1話 漢の闘い』はこちら💁‍♂️

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第2話 闘いにあとには』はこちら💁‍♀️

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第3話   みっちゃんとマキさん 

 

ヤマトのエサを買うため帰り道でコンビニに寄った。

 

 

入り口でヤマトを待たせ自動ドアをくぐると、冷房で程よく冷えた空気とともに、みっちゃんが笑顔で迎えてくれる。

 


「いらっしゃいませ!あ、味玉さんだ。久しぶりですね」

 

 

節約生活の味岡は滅多にコンビニには寄らない。

昼食は手製の弁当だし、飲み物も水筒に詰めた麦茶だ。

 

 

自宅と最寄駅の中間にあるこのコンビニには、ちょうどタバコを切らした時に寄るくらいだが、それでもみっちゃんとは仲良くなった。

 

 

好みの女性を見つけるとちょっかいを出さずにはいられないのだ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「すみません。アチョーください」

 

 

「は?え?アチョー?」

 

 

「ん?あれ?違ったかな。ええと…胃腸でもなく、右朝でもなく…あ!そうそうエチョー!」

 

 

「…エ、エチョー」

 

 

「ほら。その端っこにあるオレンジ色のイチバン安いタバコ」

 

 

「え?あー…あはは~!お客さん、これアチョーでもエチョーでもなくエコーです!」

 

 

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「え?マジすかポリス?どうりでいつもコンビニでへんな目で見られる訳だ。早く言ってくれりゃいいじゃんね。ありがとう、ええと…みっちゃん!」

 

 

ネームプレートの『道端』という名字をどう読んでいいか分からず(分かっていてもそうするのだが)勝手につけたあだ名で呼んだ。

 

 

みっちゃんは少しはにかんだ笑顔と一緒にタバコを差し出した。

 

 

「ボク味岡玉夫、通称味玉。よろしくね、みっちゃん」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

それからというもの、味岡は時々このコンビニに寄る。

 

 

わざわざ切れたタバコをしばらく我慢して、ここまで帰ってくることもある。

 

 

化粧っ気がなく、黒髪を、これまた黒いゴムで後ろにまとめただけの地味なみっちゃんは、いつもニコニコしている。

 

 

小柄で少しぎこちない動きが、どことなくコケティッシュで可愛らしい。

 

 

 

なにしろ、ふたり目の妻と別れてから、味岡が会話する女性は、会社に業務終了報告をする時、たまに電話に出る経理のお局さまと、現場で「ご苦労さまぁ~大変だねぇ~」と声をかけてくれる近所のおばぁちゃまくらいである。

 

 

若い頃、散財しまくったキャバクラなんてもんは、今はとても行く余裕がないので、若い女性との会話はとても貴重だ。

 

 

 

「久しぶりだね、みっちゃん。ごめんね。俺に会えなくて寂しくなかった?」

 

 

「私のほうこそごめんなさい。今の今まで味玉さんのことすっかり忘れてました。アチョーですか?」

 

 

 

味岡は、みっちゃんのこういう返しが大好きなのだ。

 

 

「いや、今日はね、猫のエサ買いに来た。いいのあるかな?」

 

 

「えー!猫飼ってるんですか?ええと…こちらの棚です。…あ、いらっしゃいませ!」

 

 

ぎこちない動きで1度レジカウンターからひょこっと出てきたみっちゃんは、ほかの客の会計のため慌ててレジに戻った。

 

 

一緒にヤマトのエサを選んで欲しかったのだが仕方がない。

 

 

 

 

えーと…どれがいいかな…

 

 

缶は高いからカリカリのやつにしたいところだけど、ヤマトとの出逢を祝して豪勢にいきたい気もする。

 

 

それに、お互い体力も消耗したしな。

 

 

この「モンプチゴールド極上鯛まぐろ」なんて最高だな。

 


いくら持ってたかな…

 

 

 

お気に入りだったのに今は角がボロボロに擦り切れた、ヴィトンのエピの長財布をまさぐると…

 

 

ゲゲンチョ!!

(;゜0゜)

2千円しかねぇぞ!

給料日まで、あと5日もあるのに…

 

 

どうする?ここは男気を見せるか…

 

 

 

しばらく悩んだのち、結局両方買うことにした。

友情は金では買えない。

 

 

それに、5日くらいなんとかなるだろう。

 


「1250円になります。ポイントカードはお持ちですか?」

 

 

 

みっちゃんは、持っていると分かりきっていても、度々ポイントカードを出し忘れる味岡のために毎回そう聞いてくれる。

 

 

そんな、みっちゃんの優しさに、照れから素直に感謝できない味岡は、つい軽口を叩いてしまう。

 


「え?ポイントカードはお餅じゃないよ。カードは食べ物じゃない。それに、お餅は喉に引っかかるから好きじゃないんだ」

 


後ろから別の客が来たので、みっちゃんは、笑いをこらえながらヒラヒラと手で味岡を追い払う仕草をした。

 

 

 

ま、今日はこれくらいで勘弁してやろう。

 

 

味岡は、満足気にレジ袋を振りながらドアに向かう。 

 

 

あ、やべっ!

ヤマトの奴、怒ってるかな?

遅いよって…

 

 

しかし、店を出るとヤマトは、猫のくせに大人しくお座りしていた。

 

 


が…

 


別に盗られてもいいやと、いつも無造作にその辺にぶん投げている制服やらヘルメットやらが入ったバカでかいスポーツバッグの上に、なにやらちょこんと鎮座まします物体が。

 

 


ん…なんじゃこりゃ?

ってオイ!ウ◯コじゃねぇか!!

チクチョウ…やりやがったなヤマトの奴…

 


「オイッ!ヤマト!!o(`ω´ )o」

 

 


振り返るも、ヤマトはすでに遥か先を悠々歩いている。

 


おーい!ヤマトーー待ってくれよーー!

 

てか俺のウチ知ってんのか? 

 

 

 

急いでヤマトに追いつき、国道を渡り、しばらく歩いて細い路地を曲がる。

 

 


我が家が見えてきた。

 

 

築70年は経とうかという邸宅の庭に、ぽつんと建つ離れを間借りしている。

 

 

空襲のあと、すぐ建ったのだろうか。

重要文化財に指定されてもおかしくない立派なボロ屋だ。

 

 

錆びた鉄門を押して離れに向かう途中、大家のマキさんが庭の花壇に向かってしゃがんでいた。

 

 

シャベルで土をいじりながら、こよなく愛する花たちに優しげにしゃべりかけていて、かなりヤバイ人の雰囲気を醸し出している。

 

 

マキさんは自分では頑なに否定するが、3つ4つは『ド』がつく天然ちゃんだ。

 

 

今日香ちゃんという中学生くらいの可愛い娘さんと、ふたりで母屋に暮らすシングルマザーだ。

 

 

味岡と同い年くらいだろうか。

詳しくは聞いていないが、旦那さんとは死別したらしい。

 

 

「ただいま。マキさん」

 


「あ、おかえりなさい玉ちゃん。早かったね 」

 

 

振り返ったマキさんの鼻の下は、ヒゲでも生やしたように腐葉土で汚れていてる。

 

 

あとで鏡を見てギョッとする楽しみをとっておいてあげるため、それには触れず味岡は答えた。

 

 

「そうなんすよ。…色々あったんですけど、まぁまぁ早く終わりました」

 


「あ、その猫どうしたの?わ!まっ黒ね。名前は…そうだ!黒猫のヤマトにしましょ」

 

 

「…ちょうどボクもそうしようと思っていたところです」

 

「あら、気があうわね。それよりお腹すいたでしょ。ご飯用意してあるから持ってきなさいよ」

 

 

 

マキさんはいつも「どうしてこんなに?」と思うほどの大量の料理を作る。

 

 

いったい何日あれば今日香ちゃんとふたりで食べきることができるのか分からないほどの量だ。

 

 

よほど今日香ちゃんの食育にこだわりがあるのか、それとも亡くなった旦那さんの陰膳なのだろうか。

 

 

気にはなるものの、そのお陰で度々ご相伴にあずかることが出来るので、そのことを突っ込んだことはない。

 

 

 今日も財布がほぼ空になった味岡には、たいそう有り難いお誘いだった。

 

 

それに、マキさんの手料理は本当に美味しいのだ。

 

 

台所の流しの下の開き戸から適当にタッパーを引っ張り出し食堂へ、テーブル狭しと並べられた料理をタッパーにギュウギュウ詰めて離れに帰る。

 

 

建てつけの悪いガラスの引き戸をガタガタとこじ開け、離れの玄関をくぐると、ヤマトがスルリとあとをついて入ってきた。

 

 

「あぁ…今日は色々あったな。まぁ、ビールでも飲みながら友情を深めようじゃないか」

 

 

 

皿に移した猫缶をヤマトに与え、自分も缶ビール…いや発泡酒のプルタブを引き起こし、使い込んで木目が黒光りする丸いちゃぶ台の前にどっかと腰を下ろした。

 

 

1杯目のグラスが空こうかという頃には、すでにヤマトは綺麗に猫缶を平らげ、さっそく縁側に自分の寝床を確保して丸くなった。

 

 

「なんだよ…猫付き合いの悪いヤツだな」

 

 


ようやく傾き始めた太陽だが、未だその力は衰えていない。

 


しかし

 


心地よい初夏の風が

緩やかに離れの居間をとおり

開いたまま閉まらなくなった曇りガラスの窓へと抜けた。

 

 

ヤマトの長いしっぽが時折揺れる

 


ゆったりと廻る酔いとともに、平穏な今日の終わりがゆるゆると近づいてくる。

 

 

疲れているのだろう

右手でちゃぶ台に頬杖をつき

すっかり泡の消えたグラスを左手に握ったまま

味岡もやがて静かに寝息をたて始めた。

 

 

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第4話「焦げとヤマトと満月と」へ続く

 

 

 

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連載アホ小説『第2話 闘いの後には』

連載アホ小説

ガードマン味玉のFunnyな1日♬

第2話 闘いの後には

 

※第1話 を読んでない方はこちら

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ふたりの漢は微動だにしなかった。

 

 

しかし、その佇まいとは裏腹に、ふたりの間には壮絶な『見えない気』の攻防が繰り広げられていたのだ。

 

 


マズい…

どう攻めても、かいくぐられてカウンターで猫パンチが飛んでくるイメージがある。

 


かつて、ミッキーロークが放ったアレだ。

 

 

アレは、かなり効く…多分だけど…

 

 

なにしろ、アレを食らった対戦者は1発KOだったのだ。

 

 


味岡が、あらゆる攻撃のイメージを放つも、ヤマトは、しなやかにその長い尻尾をくねらせ悠々と受け流す。

 


風に揺蕩う柳のようだ。

 


しかし、味岡も全てを出し切ったワケではない。

 


まだ2手残している。

でなければ、このような無謀な闘いを挑むことはない。

 

 


かの大山倍達氏が言った。

 


「もし仮に人間と猫が闘ったなら、人が日本刀を持って、はじめて対等であろう」

 


と。

 


そう

闘いにおいて猫の敏捷さは、それほどまでの脅威となるのだ。

 

 


そろそろだな…

 


味岡は、いったん攻撃の手をとめ、外に放っていた気の流れをヘソのあたり、いわゆる丹田に集め始めた。

 


次第に大きくなっていく気の塊を、ギュッと圧縮してピンポン球くらいの小さな玉にする。

 


さらにその周囲に新たな気の膜を重ねあわせていく…

 

 

その作業を繰り返すこと十と数回

 


やがて核の如く硬く凝縮された気の塊を、今度はユックリと上昇させ、頭蓋骨の内部、前頭葉の位置に配置する。

 

 


よし、イメージしろ…

限りなく明確に…

 

 


だんだんと形を成したそれは、殺人…いや、殺猫凶器へと変貌した

 


そう

 


『猫じゃらし』だ。

 


これでヤマトの気を引き、その隙を突いてワン・ツーからの左のダブルで決める作戦だ。

 

 


ふふふ…どうだヤマト

気になるだろう?

思わず、お尻がフリフリしちゃうだろう?

さぁ、行くぞっ!

 

 


味岡は、ユラユラと左右に振っていた猫じゃらしをヤマトの鼻先に鋭く突きつける。

 

 


しかし、である。

 


全く意に介さず余裕のダッキングを決めて猫じゃらしを躱したヤマトは、鋭く踏み込んでの猫パンチを繰り出した。

 


ヤマトの左が、味岡の鼻先をかすめる。

 


ツン…

 


とした痛みと滲む涙。

鼻血がポタリとアスファルトに点を作った。

 


マジか?

なんで…

 

 

 

呆然とする味岡に

しかし、追い打ちは来ない。

 


・・・?

 

 


一瞬不思議に思った味岡だが、すぐに悟った。

 


ふふふ…

そうか…解ったよヤマト。

俺が全てを出し切っていないのが気に入らないんだな。

 


いいさ、俺もいよいよマズい。

鼻血で呼吸がしづらいんだ。

よし、次の攻撃が最後だ。

 


これで倒せなかったら、もう何も残ってねぇ。

そうなれば俺は終わり。

真っ白な灰になるしかねぇが、それも本望だ。

 


「さあ勝負だ!!」

 

 


再び気の塊が、味岡のリーサルウェポンを形造る

 

 

『マタタビ』だ。

 


と、ヤマトの表情に初めて警戒の色がにじむ。

 


ふふ…どうだヤマトよ。

こればっかりは、さしものお前も、ただじゃ済まぬだろう。

さあ、覚悟しやがれ!

 

 

 

弓矢を放つ要領で、ユックリとマタタビを後ろに引き、ヤマトの右斜め上に照準を合わせたその時。

 

 

ヤマトの潰れた片目がカッと開き、オレンジ色の閃光を放った。

 


な、なんだ!?

 


総毛が逆立ち、鬼の形相になったヤマトのスタンドが、竜巻のように渦を巻きながら味岡を呑み込んだ。

 

 

 

「ウワーーーーーッ!!」

 

 


そのまま、後ろのコンクリに吹っ飛ばされた。

 

 

 

 

 

・・・ハッ!

 


気がつくと味岡は、詰所の長椅子に横たわっていた。

 

どうやら気を失って、夢を見ていたようだ。

 


しかし、ふと見ると、ヤマトが足元で毛づくろいをしている。

 


どこまでが現実で、どこからが夢なのか…

 


監督が、目覚めた味岡に気づき、顔を覗き込む。

 


「あ。気が付いたね。どうやら軽い熱中症を起こしたみたいだ。ん?…いや、突然フラッとして、ここに運んだのは、ほんの数分前だよ。それより、僕は感動したよ味岡くん。よくぞ法令遵守に徹してくれたね。今日はもう撤収だ。お疲れさん」

 

 

「はぁ…はい。あの、俺…そうだ!コンクリートは!?」

 

 


鉛のように重たい身体を起こしながら、背中がコンクリートでベッタリ汚れた制服に気づき「ヤッちまった!」と焦る味岡に、監督は落ち着きはらって微笑む。

 

 

「あぁ…じゃ、一緒に見にいくか」

 

 

 

監督に続き現場に戻ると、コンクリートには、大の字の人型と、それを斜めに横切るヤマトの足跡。

 

 

バッチリ乾いている。

 

 

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「あ、あの…これ……」

 


「いや、いいんだ味岡くん。偶然施主が視察に来ていてね。必死で猫を止めようと威嚇している味岡くんの様子を目撃したんだ。いたく感激していてねぇ…こう言うんだ『この人型は、我が家の家宝とする。そして代々語り継ごう。ここに我が家の駐車場を守ろうと命を張った真の漢がいたことを』ってね。鳥肌もんだったよ。施主は、うっすら涙まで浮かべていたよね」

 

 


監督は、満足気に「ウンウン」頷いている。

 


「…はぁ…ありがとうございます。じゃ、僕はこれで失礼します」

 

 


今ひとつ現実感が湧かないまま、詰所で制服を着替え、荷物をまとめて家路につくと、ヤマトが味岡の後をスルスルとついてくる。

 


「どうした?ヤマト…そうか!例のあれだな。河原ド突き合い&土手ゴロゴロアフター、仰向け大の字からの『なかなかやるな』『ふん!お前もな』(2人同時に)『ハハハハハ!!』だな。よし来いヤマト。今日からマブダチだ!」

 


そうして、ヤマトと味岡の共同生活が始まるのだった。

 

 


陽も傾きはじめ

やや涼しくなった風が、軽やかに公園の木々を抜け、サッカーグラウンドに吹き抜ける

 


夢中でボールを追いかける子らの嬌声が彼方此方


砂場をヨチヨチ歩く我が子を優しく微笑み見守る若人妻

 

 


心地良い疲労感を抱え味岡は思った。

 


歩いて帰れる現場で良かったな…

 

 

 

  

第3話『みっちゃんとマキさん』へ続く…

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連載アホ小説『第1話 漢の闘い』

連載アホ小説

ガードマン味玉のFunnyな1日♬

 

第1話 漢の闘い

 

「じゃ次の問題…『自転車が、ガードマンの制止を無視して通行しようとした。事故を起こす危険があったので身体を張って自転車を止めた』はい、マルかバツか?え~と…味岡くん答えてみて」

 

 

小汚い雑居ビルの3階

味岡玉夫(通称味玉)は、10人も入れば随分と酸素濃度が下がりそうな会議室でガードマンになるための新任研修(未経験者は着任前に30時間の研修を受けなければならない)を受講していた。

 

 

指導教(指導教育責任者)の亀山が「ジロッ」と味岡を睨み、手にしていた指示棒で味岡を指す。

 

 

亀山は元警察署長

プチ天下りだ。

 

 

警備会社が、退任した警察官を受け入れれば、その警官とコネクションがある所轄での道路使用許可証(工事のため公道を一時的に占有する許可)が取りやすくなるほか、ここでは言えないような様々なメリットがある。

 

 

 

「あ~はい…まぁ、マルのような気もしますが、わざわざ問題にしているってことは何かあるんでしょうね…だから答えはバツ…かな」

 

 

 

味岡のヒネた答えにムッとしたのか、亀山は元々いかつい顔をさらにしかめて言った。

 

 

「味岡くん。そんなひねくれた考え方じゃダメだ。世の中通用しないよ。…まぁ、答えは合ってるけどね。理由はちゃんとあるから良く聞いておいてね」

 

 

 

ガードマンが行うのは「交通誘導」

それに対し、警察官が行うのが「交通整理」

 

 

前者はあくまでも お願いであり工事への協力を依頼するだけ。

 

仮に歩行者や自転車、車両などがガードマンの言うことを聞かなかったとしても、それ以上のことはできない。

 

 

それに対し警察官が行う「交通整理」は強制力を持つ。

 

信号と一緒、つまり無視すれば道路交通法違反で反則金が課せられ、悪質な場合は罰金刑になることもある。

 

 

制服を着て誘導灯を振るガードマンに、一般人が必要以上に威圧感を感じたりしないようにするため、その権限には制限がかけられている。

あくまで、一般私人の権限内のそれでしかないのだ。

 

 

ほかにもガードマンに対する制限は多い。

業務中は、交通誘導以外の作業を行ってはならない。

 

 

職人さんに協力して工事そのものを手伝うことはもちろん、カラーコーンや工事看板の設置、道路の掃き掃除でさえも本来は行なってはならないのだ。

 

 

これらは、労働者派遣法および警備業法の規定によるもので、仮に業務外の作業を行いケガを負っても労災は下りない。

 

 

 

 

 

 

「・・・くん!・・・いてるの?・・・味岡くん!オイってば!!」

 

 

 

ハッと我にかえる。

 

 

朝礼時(と言っても朝礼会場はなく、住宅街の道路上である)現場監督が注意点を説明する中、味岡は新任教育の時の事を思い出し、ボウっとしていたようだ。

 

 

「あーはい、すみません。聞いてます。要は警備業法をちゃんと守ればいいんですよね」

 

 

 

 

小柄で神経質そうな、それでいて、どこか抜けたところがある雰囲気。

 

味岡の問いに監督はグイッと胸を張り、答える。

サイズの合わないヘルメットがズルリと後ろにズレた。

 

 

「そう!なにしろウチは天下の湧水建設だからね。コンプライアンス・CSRには徹底的にこだわっているんだ。どんな些細な法令違反も見逃さないからね。もしも、法令違反があったらオタクとの取引は今後一切しないから、そのつもりでね!」

 

 

 

味岡は、ヘルメットをかぶり直しながら言う監督を苦い顔で一瞥し、心の中でつぶやいた。

 

 

 

うへぇ!そりゃいくらなんでも大袈裟じゃないかい?

長谷部の野郎。また、こんな面倒な現場に俺を送り込みやがって…

チクショウ、2度とあいつの口車には乗らないようにしよう。

 

 

長谷部は、管制といって、顧客からの依頼に合わせガードマンを各現場に配置する部署の責任者で、随分と人を喰った、ふざけた野郎だ。

 

 

「はい。お任せください監督。で、今日の業務内容なんですが…」

 

 

「あぁ、そうだね…じゃ説明するよ…」

 

 

 

説明された本日の業務は

 

『目の前に建つ立派な個人宅の駐車場に、コンクリートを打設したあと、それが乾いて固まるまで見張っている』

 

という随分ショボいものだった。

 

 

これが天下の湧水建設さんの仕事か?と思ったが、どうやら専務の知り合いの邸宅らしい。

なおさら注意が必要だ。

 

 

しかし、業務自体は、ものの3~4時間もあれば終わる。

 

 

今回ばかりは、確かに長谷部が言った通りオイシイ現場なのかもしれない。

 

 

前回は、ホントにヒドかった。

 

 

 

 

「味岡くん、味岡くん!オイシイ現場があるんだけど行ってみない?」

 

 

「へぇ…どんな現場ですか?」

 

 

「うん、それがね、仕事の終わりはハヤイし、監督さんや職人さんもいい人でやりヤスイし、とってもオイシイよ」

 

 

 

ラッキー!

 

と、喜び勇んで行ってみれば何のことはない。

 

 

1階に吉野家さんの店舗が入っていたビルの解体工事だ。

 

 

早いの・やすいの・美味しいの…

 

 

クソッ!

 

 

実際は、休憩は無いは、粉砕したコンクリートガラは運ばされるは、荒っぽい監督にどやしつけられるは、散々な現場だった。

 

 

仕事が終わった後、長谷部に文句を言ったが、涼しい顔(電話なので見えないのだが)で流される

 

 

「あはは~!味岡くんシャレだよシャレ。おこっちゃや~よ♡」

 

 

 

バカバカしくて怒る気にもならなかった。

 

 

今回の場合は、こうだった。

 

 

「味岡くん。オイシイ現場あるよ。どう?お兄さん?興味無い?」

 

 

ポン引きか?

 

 

「もうダマされないっすよ長谷部さん。この前は散々な目にあったんだから」

 

 

「いやいや、味岡くん。今度ばかりはホントのホント。これ買わなきゃ損するよ。すんごく楽な現場なんだ。半日かからないんじゃないかな。もちろん日給は満額出るよ。オイシイよ」

 

 

「ふ~~ん…限りなく怪しいけれど…ま、いっか。もう一回ダマされてみようかな」

 

 

「そうこなくっちゃ!じゃ現場の住所言うね。味岡くんの家からなら歩いていけるよ。さぁ!メモのご用意はよろしいですか?え~っと…江東区……」

 

 

 

 

 

現場では、コンクリートミキサー車によるコンクリ打設が終わり、土間屋さんがコテで平らにならす。

 

 

30分もかからない。

 

 

「じゃ、あとよろしく。この天気なら…そうだな、3時間もすれば、ある程度乾くんじゃない?そしたら撤収ね。僕は事務所に戻るけど、たま~に巡回に来るからね。くれぐれも法令順守で頼むよ!」

 

 

そう言うと、監督は去って行った。

 

 

 

さあて、お仕事お仕事。

 

 

しかし、ここは閑静な住宅街。

人通りは少ない。

 

 

平日の午前中なので、コンクリートに足跡👣をつけようとするイタズラ好きな小学生もいないだろう。

 

 

特にやることもないし…

暇な1日になるぞ。

 

 

 

 

コンクリに「ひらり」と舞い落ちた木の葉を慎重に取り除き、問題ないことを確認すること数回、順調に時間が過ぎていたその時…

 

 

1匹の猫が現れた。

 

 

絵に描いたような黒猫だ。

 

 

向かいのブロック塀の隙間から顔をのぞかせ佇んでいる。

 

 

片目がつぶれ鼻血を流している。

 

 

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ケンカ帰りか?

 

 

おいおい勘弁してくれよ全く…

コンクリに猫の足跡🐾なんて、まるでマンガの世界じゃないか。

 

 

 

味岡は無類の野良ネコ好きだし、その黒猫は怪我もしているようだが、今だけは構ってられない。

 

 

「シッシッ!」

 

 

手を振り威嚇した。

 

 

ところが、普通なら人間を見るとササッと逃げる野良猫が、なぜか微動だにせず5mほど先から味岡をじっと睨んでいる。

 

 

潰れていない右目でチラとコンクリを見て笑った。(ような気がした)

 

 

ゆっくりと前進。

近づいてくる。

 

 

ダメダメ!

まだ乾いてないんだから。気持ちはわかる。肉球をコンクリに『ぐにゅ』ってやりたいんだろ。そんでもって怒る施主の顔こっそり盗み見て、してやったりとほくそ笑みたいんだろ。

でもだ~めよ。

ほら!あっち行け!

 

 

 

誘導灯を振って追い払おうとするも、黒猫は余裕のたたずまいである。

 

 

さらに1歩

 

 

チクショウ…こうなったら仕方がない。

実力行使だ。

 

 

猫をひっつかもうと手を伸ばしかけたその時、視界の隅に人影が写った。

 

 

監督が、遠くの電柱の陰からジーーっと睨んでいる。

口をへの字にして腕組みだ。

 

 

まさか…

 

 

これを警備業法違反と言うのか?

 

 

猫だよ?

 

 

確かに交通誘導に強制力はない。

ひたすら、お願いするのみだ。

 

 

しかし猫に?

どうやって?

 

 

味岡は、前方に腕を伸ばし、右足を踏み出した姿勢で固まった。

 

 

そうこうしているうちに黒猫は、また2歩進む。

 

 

もう4mの距離だ。

 

 

ええい、どうすりゃいいんだよ。

仕方ない…ダメ元で言ってみるか。

 

 

 

「あのぉ~…すみません黒猫さん。あ、お名前がわからないのでとりあえず黒猫さんと呼ばせて頂きますね。えと…今ですね、まだコンクリが乾いてなくてですね、通られると困ってしまうんですよ。はい…お気持ちは重々お察ししますがね。ここ通りたいんですよね?近道ですか?でも大変申し訳ないのです。あちらから迂回していただけないでしょうか?」

 

 

しかし黒猫は…

 

 

「フンッ!」

 

 

鼻で笑いやがった!

 

 

ペロペロと毛づくろいをして、再び味岡に向き直り、ニヤッと笑った。

 

 

今度は、間違いなく笑った。

 

 

さらに2歩

 

 

「ちょ、ちょっとちょっとお客様!お願いです!ただいま支配人を呼びしますので、しばらくお待ちいただけませんか!!」

 

 

黒猫は、踏み出そうとした左足をピタっと空中で止め、ゆっくりと元に戻した。

 

 

通じたのか?

まさかな…

 

 

しかし今がチャンスだ。

どう対処すべきか、急いで監督に指示を仰ごう!

 

 

と、監督のもとに駆け寄ろうと走りだした瞬間。

 

 

「味岡くん!立哨(りっしょう)位置、離れちゃダメっ!!」

 

 

おいおい監督…そりゃないぜセニョール。

じゃ、一体どうすりゃいいんだよ。

あまりのバカバカしさに泣きそうになってきた。

( ;´Д`)

 

 

 

しかし、弱ってばかりもいられない。

俺もプロのガードマンだ。

ここで引き下がっては男…いや「漢」がすたる。

 

 

 

腹に力を込めて、身体の隅々から闘志をかき集めた。

 

 

よーーーし!

見てろよ黒猫…

そう!黒猫のヤマトよ。

俺をナメた事を後悔させてやるぜ。

 

 

それに監督さんよ。

俺が本気出したらどういうことになるか、目ん玉ひん剥いてよ~く見てろってんだ。

 

 

 

味岡は、おもむろに、しかし力強く両手を地面についた。

 

 

対決だ

手は出さねぇ

気力と気力のぶつかり合いだ。

俺の本気のオーラ

受けてみやがれ。

 

 

 

ヤマトは、それまでの余裕の微笑みを一変させ、隻眼を鋭く輝かせた。

 

 

ヤツも本気だ。

キツイ勝負になるぞ。

 

 

 

初夏の太陽が、対峙してまんじりともしない2人…いや、1人と1匹の漢、そして、半乾きのコンクリをジリジリと焦がす

 

 

味岡の脇の下は、じっとりと汗ばんできた

 

 

ツ…

 

 

と、こめかみを汗がつたった。

 

 

 

 

 

第2話 『闘いの後には』へ続く…

 

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三浦国宏 最終話 『プロの仕事♡後編』

おはようございます😃からの〜こんにちばんは!

 

 

三浦国宏 最終話です。

 

 

メリクリな気分を台無しにしてさーせん!

許してくれる心の広い方は是非どうぞ。

 

 

 

※第1話〜3話をお読みでない方は↓の各リンクからどうぞ 。

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三浦国宏 最終話 『プロの仕事♡後編』

 

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バルセロナ五輪最終選考前日の練習で左目をカット。ドクターストップにて3大会連続出場の夢破れた三浦国宏

 

 

「お客様、もう間もなく2時間ですので、これがラストオーダーになります」

 

 

 

串カツ屋の店員にそう告げられ、ふたりは店を変えることににした。

 

 

2軒目は日本酒を呑ませるお店。

 

 

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とりあえず乾杯

 

 

並々と注がれた枡から派手に日本酒をこぼした三浦国宏は『酔っ払いですみません〜!押忍、押〜忍!』などと言いながら、テーブルに口をつけてズルズル日本酒をすすります。

 

 

「ちょ!かいちょっ!大丈夫ですよ!そんなことしなくても。もう一杯頼めばいいだけじゃないですか」

 

 

 

慌てておしぼりで拭こうと差し出したボクの手を、しっかりパーリー※1して、キレイにテーブルの日本酒を吸引した三浦国宏が、今度は慎重に枡酒に口を寄せる。

 

※1 パーリー:パーリング、相手のパンチを払いのけるようにして防ぐ、ボクシングの防御テクニック

 

 

「ところでさっきの続き、どうなったんでしたっけ?」

 

 

 

相変わらずの彼の奇行に、ボクは呆れ顔で尋ねた。

 

 

「えーと…どこまで話したっけな…あ、そうそう!アダルトショップの店員さに、その先輩の体格やモノの大きさを説明してね。そんで相手の◯◯ちゃんの具合も詳しく説明したんですよ」

 

 

「は?なんで女性の方の具合も説明できるんですか?」

 

 

全くこの人は…( ̄▽ ̄;)💧

 

 

「あはは〜!まぁまぁ…んで、店員さんがお勧めのバイブを持ってきてくれたんですね。『これなんかどうですか?最新式ですよ』ってね」

 

 

「ふーん…そりゃ安心ですね。プロのお勧め品なんですから」

 

 

 

運ばれてきた、あん肝をつつきながら、なんだかどうでもよくなってきたボクはテキトーに相槌を打つ。

 

 

「いや〜〜それがね〜〜。どうもそのバイブ、迫力に欠けるっていうか、元気が足りないっていうか…元気ですかぁーーーっ!

 

 

「ブっ!…う、うるさいってーのっ!この酔っ払いがっ!

 

 

 

幸い店にほかの客はいない。

 

 

「あははのは!ごめんちゃい…そんで店員さんにこういったんですよ『この店にあるイチバンでっかいやつくださいっ!』ってね。渋る店員をなんとか説得して持ってきてもらったんですよ!まるで金属バットみたいな一品を!」

 

 

「・・・( ̄▽ ̄;)💧」

 

 

「さすがにこりゃどうかな?って思ったんですがね、ちょうどローションの小瓶が目に付いてね、これ使えば、なんとかなるかな?って一緒にレジに出したんですよ」

 

 

冷酒をグビリと飲み三浦が続ける。

 

 

「そしたら店員さんが『お客さん…その先輩、お相手の女性とはワンナイトですか?それとも長いおつきあいをお望みで?』って聞くんですね」

 

 

「へぇ…なんでしょうね。そこまで踏み込んだ質問」

 

 

「私も不思議に思いながら、もちろん長い付き合いを望んでます!って答えたらね『でしたらそのローション、こちらの500ml入りの方がお得ですよ』だってさ!あっはっはは〜!」

 

 

ど、どうでもいいわ…( ̄▽ ̄;)💧

 

 

「いや〜。これぞプロの仕事♡って思いましたね〜。急いで先輩のところに帰ったんですが、もう始まっててね『三浦っ!遅いんじゃっ!早よ持ってこいっ!』って怖い顔で言われたもんだから焦っちゃって焦っちゃって…単4電池8本入れなきゃいけないんですが、プラスマイナスの向きがどっちなんだが分からなくてね、何度入れ替えても動かないんですよ。その度に『コラ三浦っ!(バキっ!)ナニしとるんじゃっ!(ボコっ!)早よせんかっ!(ドスっ!)』ってボコボコに殴られてね…」

 

 

 

懐かしむように遠い目をした三浦国宏を横目にボクは言った。

 

 

「大将!お勘定お願いしまーす!」

 

 

 

帰ろ。

 

 

(_´Д`)ノ~~オツカレー

 

 

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※このブログは、元気で楽しくやっていることを皆さんにお知らせしたい!という三浦国宏の強い希望のもと、本人に代わり、敬愛の念を持って書かせていただいています。

何かお気づきのことや、ご意見などがあれば、コメントでお知らせください。

 

 

 

2019年2月9日 追記

近況をご報告します。

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三浦国宏 第3話『プロの仕事♡前編』

あいすみません

おまっとさん。

 

三浦国宏 第3話だす!

 

 

次の4話くらいで完結の予定です…多分ww

 

 

ま、彼のことなんで、オモローネタは真夏のボウフラのように湧いてきます。

 

 

なんで、そのうちまた書くことになると思いますがぁ〜♬

 

 

 

とりま第3話『プロの仕事♡前編』をどうぞ!

 

 

 

※第1話をお読みでない方はこちら

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※第2話をお読みでない方はこちら

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三浦国宏  第3話『プロの仕事♡前編』

 

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ルーマニアの白い妖精 ナディア・コマネチさんと

 

 

 

大きな声じゃ言えないんですけどねっ‼️」

 

 

 

思わず口に含んだハイボールを吹き出してしまうくらい大きな声で話し始める三浦国宏。

 

 

混み合った店内の視線がボクらに集まる。

 

 

「か、会長っ!声が大きいですってww」

 

 

 

ボクは、訝しげにこちらを窺い見る他の客たちに、頭をペコペコ下げながら彼をたしなめた。

 

 

「あはは〜!メンゴメンゴ」

 

 

 

メガジョッキに口をつけ、イタズラっぽくおどける彼に話の続きを促した。

 

 

「ところで味玉くん。どんな世界にも『その道のプロ』って呼ぶにふさわしい凄いヤツがいるもんですよね」

 

 

「はぁ…まぁ…そうでしょうね」

 

 

 

いい加減ハイボールに飽きたボクは、裏表になった1枚もののドリンクメニューをクルクルと幾度もひっくり返しながら上の空で相づちを打つ。

 

 

「私の先輩で◯◯先輩ってのがいてですね。女子の元日本チャンプの◯◯ちゃんて娘と付き合うことになったんですね」

 

 

「へぇ〜!それはすごい。最強カップルですね」

 

 

「そんで◯◯先輩が言うんですよ。『三浦!ワシァ今夜◯◯ちゃんと一発キメる!そんで、その大切な夜にサイコーのオモテナシをするためにお前に頼みがあるんじゃ!』ってね」

 

 

 

またロクでもない話をしようとしてるな…

( ̄▽ ̄;)💧

 

 

と思いながらボクは店員に手を振り、掲げたメニューをトントンと指差し、その指でそのまま「1杯」を表す。

 

 

ジェスチャーが通じたようだ。

 

 

店員は「うん」とひとつ頷き、カウンターの奥に下がって行った。

 

 

三浦国宏は、そんなボクらのやり取りを気にも留めず話を続ける。

 

 

「はい!先輩!なんでも言ってください!っつう私に『んじゃ、早速で悪いけどなぁ三浦。街に行って電動バイブを1本買ってきてくれんか?とびきり高性能のやつを頼む』って頭を下げるんですよ。渡された5万円を握りしめてダッシュでしたね。なにしろ普段からめっぽう怖いその先輩が、私に頭を下げるのなんて初めてのことでしたからね」

 

 

「はぁ…ソウナンデスネー」

(※棒読み)

 

 

「そうなんですよ!そんで電車に乗って、それらしい駅で降りて、大人のオモチャ売ってる店を探したんですけどね。どこにあるか分からない。途方にくれている時、たまたま通りかかった警ら中の婦人警官に聞いてみたんですよ」

 

 

「あんた…モッてる男ですね。相変わらず」

 

 

「ん?そん時は渡された5万円以外何も持ってなかったですけどね…それよりその娘、若くて可愛い婦人警官でね。『はい!それならその路地を入って2本目を右に…あ…いえ…どうでしょう…私配属されたばかりで まだ土地勘がなくて…』ってね。あはっはっは〜!」

 

 

 

このオッさん、話半分作ってるな。( ̄▽ ̄;)💧

ま、オモロイからいいけど…

 

 

「モジモジする婦人警官を必死に説得して店の前まで案内してくれるよう頼んだんですよ。店に着いた時『一緒に選んでもらえませんか?』って言ったらさすがに怒って行っちゃったんですけどね」

 

 

「ふぅん。で、その婦人警官の道案内がプロって話ですか?」

 

 

 

店員が持ってきたホッピーの黒をマドラーでかき混ぜながら少し拍子抜けで尋ねる。

 

 

「いやいやいや。プロはその店の店員さんですよ。電動バイブください!って言ったら私の身体をジッと眺めてこう言ったんですよ『お客さん。見たところバイブは必要なさそうですが、贈り物ですか?』ってね」

 

 

「へぇ!それはスゴイですね!服の上から見ただけで!」

 

 

「いいや味玉くん。まだまだほんの序の口。彼のスゴイのはこっからです」

 

 

 

と彼は再びニンマリ笑うと、おもむろに立ち上がり、ふらつく足取りで奥のトイレに向かった。

 

 

 

冷めきった豚バラ串の2本目をソースにトポンとつけ、彼の戻りを待った。

 

 

 

 

(-ω-ゞあい⌒☆

今日はここまでっ‼️

 

 

v(。・ω・。)ィェィ♪

 最終話書きました笑笑

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※このブログは、元気で楽しくやっていることを皆さんにお知らせしたい!という三浦国宏の強い希望のもと、本人に代わり、敬愛の念を持って書かせていただいています。

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三浦国宏 第2話『日当千円の雑魚寝生活』

あい

CM跨ぎばりに引っ張ってしまってさーせんっ!

 

 

三浦国宏の続きです。

今回からドキュメンタリー小説風にお送りします。

 

 

※第1話をお読みでない方はこちら💁‍♂️

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※若かりし頃の三浦国宏

 

三浦国宏 第2話『日当千円の雑魚寝生活』

 

 

「しかし、そもそも、なんで愛媛だったんすか?」

 

 

最初のメガジョッキのハイボールを早々に空にして尋ねた。

 

 

「川崎の鉄工所にさぁ〜『来月から暇になるからごめんね〜』って言われてハローワークに行ったんですよ。そこで紹介されたのが愛媛だったんですねぇ〜」

 

 

三浦国宏は、10も年下の僕にも敬語を使うのだ。

キャベツをアホみたいに頬張りながらそう答える。

 

 

「あ。そうなんすね(汗)…しかし、すごいですね…川崎のハローワークが愛媛の仕事紹介するなんて。んで、それに乗っちゃう会長もww」

 

 

 

他にいくらでも求人がありそうなもんなのに所轄も管轄もすっ飛ばして愛媛とは…

 

 

ハローワークの職員も彼を遠ざけて身の安寧を図りたかったのかもしれないな…

 

 

などと考えながら続きを促した。

 

 

 

「ヒドかったですねぇ…祭りで、たこ焼き焼いたりさぁ…現場で足場組んだりさぁ…会社の車で人里離れた山奥から毎朝1時間以上かけて色んなところに行かされましたよ」

 

 

彼は、空になった、おかわり自由のキャベツの皿を高く掲げ、店員に目で合図しながら続ける。

 

 

「そんで、仕事が終わったら、きったねぇ廃墟みたいな団地に連れて帰られて、そこで5人くらいで雑魚寝ですよ。日当は1日千円。寮費だとか電気代だとか色々引かれるんだって言ってさぁ…携帯も新しいのに強制的に変えさせられて誰にも連絡取れないし、逃げようにも、とても歩いて町まで行けるような場所じゃないですしねぇ…。同部屋の奴らはみんな死んだような目でインスタントラーメンすすってましたねぇ…」

 

 

「…凄まじいすね。今時そんなことあるんすね。んで、どうやって抜け出したんすか?」

 

 

「ヒッチハイク♬ 滅多に車通らないから、ライトが近づいて来たら道の真ん中で両手を広げてさ。トラックの運ちゃんに『三浦国宏だ』って言って、スマホで検索してもらったら喜んで乗せてくれましてねぇ。でも、高速に入ってどっかのパーキングエリアで降ろされてね。死ぬ思いで高速から下に降りて、町まで歩いて、そのまま交番に駆け込んだんですよ」

 

 

「うヘェ!相変わらずムチャしますねww…でも、警察に相談すれば安心ですね。ほかの人も助けられたんじゃないですか?」

 

 

しかし、三浦国宏は「悔しい」とも「待ってました!」とも取れる意味深な表情をして続ける。

 

 

「警察官さんに経緯を話したんですけどね『三浦さん。その会社はヤ◯ザですよ。前から度々相談が寄せられてるんですが、巧妙に法の網をくぐっていて我々も中々動けないんですよ。お気の毒ですが給料とかは諦めてサッサと逃げた方がいいですよ』って言うんですよ」

 

 

「ははぁ…それは厄介っすね…(モグモグ)」

 

 

僕は我慢できなくなり頼んだ串カツを頬張る。

豚バラ串は、とっくに冷めていた。

 

 

「そこで初めてヤ◯ザだったと知ってね。追い込みでもかけられるんじゃないかと、今更ながら逃げて来たことが怖くなっちゃったんですよ」

 

 

「…随分遅いっすね。(ムシャムシャ)気づくのがww」

 

 

「そう?それでこう尋ねたんです。『大丈夫ですかね?逃げて来ちゃったんですけど。警察に相談した方がいいですかね?』ってそしたら『三浦さん…ここがその警察です…』だって!あっはっはっは〜〜!」

 

 

(…こ…これが言いたかったのか…( ̄▽ ̄;)💧)

 

 

「あ!そうそう。警察といえば面白い話があってですねぇ…」

 

 

 

 

最近のことは酔って覚えていないのだが、昔話は詳細に記憶している彼が、イタズラっぽく目をキラキラさせて昔話を披露し始めた。

 

 

 

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※カウンターで、文字通り、膝付き合わせ飲んどりやすww

 

あい

続きはCMの後で

(*´艸`*)ウシシ

 

 

 

第3話 書きましたww

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三浦国宏 第1話 『行方不明だったオリンピアン捕獲完了』

三浦国宏 第1話 『行方不明だったオリンピアン捕獲完了!』

 

どぉ〜もぉ〜

どうもどうも!

 

 

アマ最強・伝説のバツ4男

ソウル・ロス2度の五輪代表に輝いた三浦国宏が行方不明になり およそ1年…

 

 

昨日、無事捕獲しました。

 

 

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※三浦国宏をご存知ない方はこちらをご覧ください。

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3年ほど前…東京のジムを畳み、地元岩手で新たなジムを開くも、仲介した不動産屋が詐欺師だったことが判明し(※本人談・真偽不明)早々にクローズ。

 

 

地元のホタテ加工場→川崎の鉄工所→愛媛にトンだところまではフォローできていたんですが、その後音信不通に…

 

 

 

携帯も変わり、Facebookも更新されない(彼の場合パスワードを忘れログインできないアカウントがたくさんあるのですが…)状態で、随分心配…いや、まったく心配してなかったんですが(笑)

 

 

 

つい先日

偶然僕の仲間が、都内某場所で働いている三浦国宏を発見!

 

 

奇跡的に捕獲できました。

 

 

渡嘉敷さんの弟さんの経営する『鳥味』にて、渡嘉敷勝男さん、渡辺二郎さんらとともに送別会をやって以来3年ぶりの再会です。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

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鳥味 江東区南砂1-4-14

 

 

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その時頂いた、おふたりのサイン入りグローブ

 

 

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おふたりのサインを貰おうと、みんなが持ってきた色紙に勝手に自分のサインをしまくるアホの長澤先輩ww

 

 

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練習生に寄せ書き入りグローブをプレゼントしてもらい、気を良くする三浦国宏

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

…話を戻します。

 

 

午後2時に都内某所で待ち合わせ。

 

 

昼間っから吞める粋な店を物色し、Wi-Fi環境がある喫茶店を見つけひと休み。

 

 

スマホをイジイジしていたら彼から電話がきました。(※電話がきたのは午後3時ごろですww)

 

 

 

「ごめ〜ん、ちょっと遅れてる〜。着くのは4時ごろになるね〜♬」

 

 

 

そうして、合流したのが4時を15分ほど回った頃。

 

 

2時に待ち合わせしてフツーに4時を過ぎるって…

 

 

 

自転車に乗って現れた三浦国宏は、相変わらず焼酎の入ったマグカップを手にしています。

 

 

自転車なもんだから、焼酎が自慢のジーンズにこぼれまくりますが、彼はそんな細かいことを気にする男ではありません。

 

 

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お気に入りのジーンズ

 

 

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とりあえず乾杯

 

 

串揚げ屋に行きましたが、彼はお代わり無料のキャベツしか食べません。

 

 

なんとなく予想していたので持参していた『僕の味玉』を食べさせました。

 

 

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味玉を食べる三浦国宏

 

 

 

そして、さっそく行方不明のワケを聞くと…

 

 

続きはまた明日。

 

 

 

(o ̄∀ ̄)ノ”ぁぃ

 

第2話はこちら💁‍♂️

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三浦国宏 第2話『日当千円の雑魚寝生活♬』

 

あい

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三浦国宏の続きです。

今回はドキュメンタリー小説風にお送りします。

 

 

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若かりし頃の三浦国宏

 

三浦国宏 第2話『日当千円の雑魚寝生活♬』

 

 

「しかし、そもそも、なんで愛媛だったんすか?」

 

 

最初のメガジョッキのハイボールを早々に空にして尋ねた。

 

 

「川崎の鉄工所にさぁ〜、来月から暇になるからごめんね〜!って言われてハローワークに行ったんですよ。そこで紹介されたのが愛媛だったんですねぇ〜」

 

 

三浦国宏は、10も年下の僕にも敬語を使うのだ。

キャベツをアホみたいに頬張りながらそう答える。

 

 

「あ。そうなんすね💦…しかし、すごいですね…川崎のハローワークが愛媛の仕事紹介するなんて。んで、それに乗っちゃう会長もww」

 

 

他にいくらでも求人がありそうなもんなのに所轄も管轄もすっ飛ばして愛媛とは…

 

 

ハローワークの職員も彼を遠ざけて身の安寧を図りたかったのかもしれないな…などと考えながら続きを促した。

 

 

「ヒドかったですねぇ…祭りで、たこ焼き焼いたりさぁ…現場で足場組んだりさぁ…会社の車で人里離れた山奥から毎朝1時間以上かけて色んなところに行かされましたよ」

 

 

彼は、空になった、おかわり自由のキャベツの皿を高く掲げ、店員に目で合図しながら続ける。

 

 

「そんで、仕事が終わったら、きったねぇ廃墟みたいな団地に連れて帰られて、そこで5人くらいで雑魚寝ですよ。日当は1日千円。寮費だとか電気代だとか色々引かれるんだって言ってさぁ…携帯も新しいのに強制的に変えさせられて誰にも連絡取れないし、逃げようにも、とても歩いて町まで行けるような場所じゃないですしねぇ…。同部屋の奴らはみんな死んだような目でインスタントラーメンすすってましたねぇ…」

 

 

「…凄まじいすね。今時そんなことあるんすね。んで、どうやって抜け出したんすか?」

 

 

「ヒッチハイク♡滅多に車通らないから、ライトが近づいて来たら道の真ん中で両手を広げてさ。トラックの運ちゃんに『三浦国宏だ』って言って、スマホで検索してもらったら喜んで乗せてくれましてねぇ。でも、高速に入ってどっかのパーキングエリアで降ろされてね。死ぬ思いで高速から下に降りて、町まで歩いて、そのまま交番に駆け込んだんですよ」

 

 

「うヘェ!相変わらずムチャしますねwwでも、警察に相談すれば安心ですね。ほかの人も助けられたんじゃないですか?」

 

 

しかし、三浦国宏は「悔しい」とも「待ってました!」とも取れる意味深な表情をして続ける。

 

 

「警察官さんに経緯を話したんですけどね『三浦さん。その会社はヤ◯ザですよ。前から度々相談が寄せられてるんですが、巧妙に法の網をくぐっていて我々も中々動けないんですよ。お気の毒ですが給料とかは諦めてサッサと逃げた方がいいですよ』って言うんですよ」

 

 

「ははぁ…それは厄介っすね…(モグモグ)」

 

 

 

僕は我慢できなくなり頼んだ串カツを頬張る。

豚バラ串は、とっくに冷めていた。

 

 

「そこで初めてヤ◯ザだったと知ってね。追い込みでもかけられるんじゃないかと、今更ながら逃げて来たことが怖くなっちゃったんですよ」

 

 

「…随分遅いっすね。(ムシャムシャ)気づくのがww」

 

 

「そう?それでこう尋ねたんです。『大丈夫ですかね?逃げて来ちゃったんですけど。警察に相談した方がいいですかね?』ってそしたら『三浦さん…ここがその警察です…』だって!あっはっはっは〜〜!」

 

 

 

(…こ…これが言いたかったのか…( ̄▽ ̄;)💧)

 

 

「あ!そうそう。警察といえば面白い話があってですねぇ…」

 

 

 

最近のことは酔って覚えていないのだが、昔話は詳細に記憶している彼が、イタズラっぽく目をキラキラさせて昔話を披露し始めた。

 

 

 

 

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カウンターで、文字通り、膝付き合わせ飲んどりやす

 

 

 

あい。

続きはCMの後で!

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第3話 書きました。

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